六日前にした‟注意喚起”の投稿はあのあと、咲良が予想だにしなかった伸び方をした。
数百万人のフォロワーがいる俳優が、咲良の投稿をいいねし、なおかつ引用投稿したのだ。
そのおかげで‟ピンキー”のアカウントは瞬く間に拡散され、一時はストーカーがSNS上のトレンドワードに上がるまでになった。
気分がいい。正直、こんなにうまくいくとは思っていなかった。
咲良は鼻歌まじりで薄紅色のカーディガンを羽織り、ピンキーリングを小指につけた。
自撮りする時は決まって右手のピンキーリングが目立つような撮り方をする。
――カシャ。
「また、届きました……っと」
いつものように自撮りを貼りつけ、数枚のDM画像と一緒に投稿する。
『ピンキー』
『投稿みてるよ、人気者だね』
‟unknown”からの嫌がらせDMは、結局あのあとも続いた。咲良が返事をすることはなかったが、無視をしていても定期的に送られてくる。
咲良が着ていた服が文章で送られてきた時は寒気がしたが、数日経ったいまでも特に実害なく生活できている。
むしろ咲良は、‟unknown”がこうしてコンテンツを提供し続けてくれることに感謝していた。
『なんでブロックしないんだ』『アカウントに鍵をかければいいだけ』というリプライが届けば『逆上される方が怖いから』という一言を送って上手く逃げた。
しかし――世間から飽きられるのは、思っていたよりも早かった。
いいね数が一万件を超えたのは、最初のDM画像を投稿した一回のみ。
その後はゆるやかに閲覧数が減っていき、今ではケーキ写真と同様に自作自演を疑う声まで上がっていた。
何か、もっと有名になる方法はないだろうか。
田中に頼んで、もっと派手なストーカー行為を捏造する?
いや、それだとバレた時に面倒なことになる。せっかくフォロワーを増やすことができたのに、アカウントを消さなくてはいけなくなるような炎上は避けたい。今のピンキーはもう、フォロワー八百人で低迷していた頃とは違うのだ。
すると、咲良の憂鬱を見計らったかのようにピロンとDM通知が届いた。
『203号室、メーター回ってた』
また、‟unknown”だ。
一気に脈拍が上がり、自分の呼吸が荒くなっていくのがわかる。
ケーキの写真を撮ったあの日、やはり見られていたのだ。あとを付けられていたのだ。そして、全てを知られていたのだ。
だって、203号室は、咲良が今住んでいる部屋番号なのだから。
カタカタと震える手でDMをスクショし、文章も書かずに投稿する。
本当は、今すぐにでも逃げなければいけないのかもしれない。
それでも、SNSの通知が、ピロン、ピロン、と増えていく。
――やった、すごいスピードで拡散されている。これでもっと、注目される。有名になれる。ピンキーを、みんなに知ってもらえる。
咲良はいつの間にか、自分に届いた恐ろしいDMの画像を眺めながら薄く微笑んでいた。