「――ぶ、ですか?大丈夫ですか!?」
「……ん?」
目を開けると、配達員さんの顔が視界いっぱいに広がっていた。あれ?私、何をしていたんだっけ……。
ぼんやりした頭が、なかなか覚醒しない。現状を理解できないでいると、配達員さんが「覚えてないんですか?」と、心配そうな顔で、尚も私を覗き込む。
「配達に来た時、ドアも窓も開いてるのに誰の気配もないから、おかしいなと思ったんです。玄関からお部屋を覗いたら、倒れているあなたの足が見えたので……勝手に上がらせて頂きました」
「へ?倒れた……?」
私が?ウソだぁ。
なんて思っていると、頬に何かがぶつかる。それは、配達員さんの頬を滑った汗だった。
「わ!す、すみません!この部屋、暑いですね……。
毎日、この環境下で片付けを?」
「お恥ずかしながら……」
配達員さんは、初めこそ心配そうな顔つきだったけど、話していくうちに、だんだんと表情が変化していった。どのように変化していったかは、今後の会話で察してもらうとする。
「真夏の外よりも暑い部屋で片づけなんて、やめてください」
「でも、おばあちゃんの家を綺麗にしないと……」
「片付けは、出来ても午前中までです。それ以降の滞在は自殺行為だと思ってください」
「す、すみません……」
そこまで言うと、配達員さんは「あ」と短く零した。
「俺こそ、すみません。怒りたいわけじゃないんです」
「いえ……。悪いのは、私ですから」
「へへ」と情けなく笑った私を、納得いかない顔で見る配達員さん。「ちょっと待ってください」と言って、ポケットからメモを取り出し、さらさらとペンを走らせた。その紙を、ぎこちない手つきで私に渡す。
「俺のSNSのアカウントが書いてあります。あなたとの連絡手段にさせてください」
「連絡手段?」
「あなたが、また倒れそうで心配なんです。だから生存確認のため、たまに連絡をいれてもいいですか?」
「せ、生存確認……」
ちょっと笑いそうになったのを、寸でのところで我慢した。なぜなら配達員さんの真剣な顔が、私の目に写ったからだ。
この人は、本気で私の事を心配してくれてる――そう思ったら、ちょっとだけくすぐったく思うと同時に、嬉しくなった。
「私のせいで、すみません。お言葉に甘えて、よろしくお願いします」
「……はい」
その時。配達員さんの目が、急に優しいものに変わった。真剣な鋭い目つきから、ジワジワ力が抜けていくようだった。