「困ってる事……あります」
「!なんですか?教えてください」
俺を心配してか、途端に眉が下がる音羽さん。真剣な顔付きが、ダイレクトに俺に伝染する。
「俺は、今日で終わりたくありません」
「え……?」
「一週間が終わっても……。明日も、明後日も。俺は、音羽さんに会いたい」
「!」
その時、音羽さんが両手で口を覆った。「まさか」と言う声が、聞こえてきそうだ。
「嫌だったら拒否して下さい。だけど、少しでも俺の事を気にかけてくれるなら……SNSのアカウントじゃなくて、今度は電話番号を交換しませんか?」
本当は、初めから電話番号を交換したかった。だけど、交換なんてしちゃったら……絶対に自分を制御出来ない。メールをたくさん送ってしまうかもしれない。電話だってしてしまうかもしれない。
音羽さんはトミ子さんを亡くして傷心している――それを分かっていながら、ようやく会えた彼女に、自分の欲をぶつけてしまいそうで。それが嫌で、電話番号ではなくSNSのアカウントを交換した。
でも、これからは――
「俺は、音羽さんの事を……
もっともっと、知りたいです」
「っ!」
赤くなった音羽さん。その顔に釘付けだった俺だけど……ふと、彼女の隣にトミ子さんの笑った顔を見た気がした。
あぁ、あの顔だ。
いつも俺に「困ったことはないか」って聞いてくれた、優しい顔。その優しさは、孫である音羽さんに確実に受け継がれている。
この一週間、音羽さんと話をしていれば、彼女がどれほど優しいか分かる。ゆえに、どれほどトミ子さんの死を悔やんでいるかも、手に取るように分かった。
その後悔に、俺は寄り添いたい。俺だって、もっとトミ子さんと話せば良かったと、後悔がつきないんだ。
俺と音羽さん。二人で辛い部分を共に分かち合えたら。そして、音羽さんの顔に笑顔が戻ってきたら――
それがトミ子さんに対する償いになるんじゃないかって、そう思う。
「あの、柊さん……。
私も、もっと柊さんとお話したいです」
「はい――!」
トミ子さん、今日までありがとう。こんな俺を気にかけてくれて、本当にありがとう。俺は今日、やっと「待ち人」を辞められたよ。
音羽さんと笑い合う日。
こんな日が来るのを、ずっとずっと、俺は待っていたんだ――
「実は、今日で柊さんとお話するのが最後かと思っていたので……嬉しいです」
「音羽さん。俺もですよ」
「へへ」
音羽さんの頬がピンクに染っているのを見て、やっと気づく。
俺たちが並べていたもの。
それはひらがなではなく、トミ子さんの愛情により引き寄せられた運命――
俺たち二人が出会う、「奇跡」そのものだった。
『奇跡を並べた先に、キミがいた』
【完】
「!なんですか?教えてください」
俺を心配してか、途端に眉が下がる音羽さん。真剣な顔付きが、ダイレクトに俺に伝染する。
「俺は、今日で終わりたくありません」
「え……?」
「一週間が終わっても……。明日も、明後日も。俺は、音羽さんに会いたい」
「!」
その時、音羽さんが両手で口を覆った。「まさか」と言う声が、聞こえてきそうだ。
「嫌だったら拒否して下さい。だけど、少しでも俺の事を気にかけてくれるなら……SNSのアカウントじゃなくて、今度は電話番号を交換しませんか?」
本当は、初めから電話番号を交換したかった。だけど、交換なんてしちゃったら……絶対に自分を制御出来ない。メールをたくさん送ってしまうかもしれない。電話だってしてしまうかもしれない。
音羽さんはトミ子さんを亡くして傷心している――それを分かっていながら、ようやく会えた彼女に、自分の欲をぶつけてしまいそうで。それが嫌で、電話番号ではなくSNSのアカウントを交換した。
でも、これからは――
「俺は、音羽さんの事を……
もっともっと、知りたいです」
「っ!」
赤くなった音羽さん。その顔に釘付けだった俺だけど……ふと、彼女の隣にトミ子さんの笑った顔を見た気がした。
あぁ、あの顔だ。
いつも俺に「困ったことはないか」って聞いてくれた、優しい顔。その優しさは、孫である音羽さんに確実に受け継がれている。
この一週間、音羽さんと話をしていれば、彼女がどれほど優しいか分かる。ゆえに、どれほどトミ子さんの死を悔やんでいるかも、手に取るように分かった。
その後悔に、俺は寄り添いたい。俺だって、もっとトミ子さんと話せば良かったと、後悔がつきないんだ。
俺と音羽さん。二人で辛い部分を共に分かち合えたら。そして、音羽さんの顔に笑顔が戻ってきたら――
それがトミ子さんに対する償いになるんじゃないかって、そう思う。
「あの、柊さん……。
私も、もっと柊さんとお話したいです」
「はい――!」
トミ子さん、今日までありがとう。こんな俺を気にかけてくれて、本当にありがとう。俺は今日、やっと「待ち人」を辞められたよ。
音羽さんと笑い合う日。
こんな日が来るのを、ずっとずっと、俺は待っていたんだ――
「実は、今日で柊さんとお話するのが最後かと思っていたので……嬉しいです」
「音羽さん。俺もですよ」
「へへ」
音羽さんの頬がピンクに染っているのを見て、やっと気づく。
俺たちが並べていたもの。
それはひらがなではなく、トミ子さんの愛情により引き寄せられた運命――
俺たち二人が出会う、「奇跡」そのものだった。
『奇跡を並べた先に、キミがいた』
【完】