「この家に荷物ですか?誰からだろう」
「!」

 トミ子さんの家で待っていたのは、お孫さん。以前俺が「会いたい」と言った、音羽さん本人だった。

「あ、……」

 驚きと嬉しさと――よく分からない感情が、一気に押しよせてくる。だけど、そんな俺の耳に、衝撃の事実が届いた。
 トミ子さんが亡くなったから家を片付けるため音羽さんが来た、という事実。寝耳に水の出来事に、俺はショックを受けた。

「トミ子さん……」

 何か困ったことは無い?と優しい笑顔で聞いてくれたトミ子さん。皮肉にも「音羽さんに会いたい」という俺の願いは、トミ子さんが亡くなった事により叶ってしまった。

「今日から一週間、白井トミ子様宛に、ずっと日付指定の荷物があるんですよ。
 なので……受け取り、明日もよろしくお願いします」

 トミ子さんの死に対し悔しさと悲しさが入り交じる中、俺は毎日トミ子さんの家に配達をした。だけど、行くたびに曇っていく音羽さんの表情が気になった。
 初めはトミ子さんを亡くして落ち込んでいるのかと思ったけど、どうにも様子がおかしいと気づき、悩みを打ち明けてもらった。
 そしてトミ子さんの荷物の謎を解明すべく、音羽さんと二人三脚で一週間を過ごしてきたわけだけど……。
 まさか最終日に、音羽さんから、こんなことを言われるとは思わなかった。

「あの、柊さん。今――
 何か困っている事、ありますか?」
「!」

 あぁ、トミ子さん。
 あなたは、すごい人だ。
 俺と音羽さんを出会わせてくれただけでなく、音羽さんに近づくチャンスさえも、俺に与えてくれたのだから。
「困っていることは無いか」というトミ子さんの口癖。それは俺にとって、まるで魔法の言葉そのものだ。

「……」
「あの、柊さん?伝票が……」

 俺がグシャリと握った伝票を見て、音羽さんが心配そうな顔をした。だけど……俺には、こんな伝票は必要ない。
 一週間の終わりを告げる伝票。まるで、音羽さんと会うのは最後と言わんばかりの代物。そんな物、俺はいらない。
 今の俺に必要な物。
 それは――