「トミ子さん、玄関の写真を変えているんですか?」
「あら、気づいちゃった?音羽の可愛さを、柊さんに教えてあげたくて!まだまだ見せたい写真があるから、これからも楽しみにしていてね?本当、目の中に入れても痛くないのよ〜」
「はは……」

 苦笑で返したが「変更された写真を律儀に眺める」という俺の習慣は、いとも簡単に根付いた。
 来る度に表情を変える、トミ子さんの孫――音羽さん。
 笑った顔、泣いた顔、不貞腐れた顔、嬉しそうな顔。
 不思議と、どの顔にも俺は惹き付けられ、ついには――ピンポンを押した後、玄関に入ってすぐ。まるで待ちきれないと言わんばかりに、写真を見るようになってしまう。そんな俺の姿は、すぐトミ子さんの目に留まることとなる。

「ねぇ柊さん。音羽をウチに呼ぼうと思うのだけど、どう?」
「え?」
「だって、いつも穴が空くほど写真を見られたんじゃ、後押ししたくなるのがお節介おばあちゃんってもんでしょう?」
「!」

 顔から火が出そうになった俺を、トミ子さんは嬉しそうに見た。

「何度も柊さんとお話をして、あなたが悪い人では無いってよく知ってるわ。すごく誠実な人だって事も。
 大事な孫の隣には、柊さんみたいな人がいてほしいのよ。おばあちゃんとしてはね」
「トミ子さん……」
「ふふ、ダメね。音羽の事が可愛すぎて。あの子が幸せになるようにって、そんな事ばかり考えちゃう」

 その時のトミ子さんが可愛らしく思えて、クスッと笑ってしまった。そんな俺を見てトミ子さんは「あなたもよ」と俺の手を握る。

「いつも私とお話してくれる柊さんの事も、私は可愛くて仕方ないの。音羽にも、あなたにも――私は幸せになって欲しいって心から思ってるのよ」
「トミ子さん……」
「ふふ」

 俺の手を離し、優しく笑ったトミ子さん。そして「柊さんの優しい心に付け入るようで悪いけど、このタイミングで聞くわね」と、前置きをした。

「ねぇ柊さん。
 今、なにか困ったことは無いかしら?」
「!」

 誤魔化すことは出来た。騙す事も簡単だった。だけど……俺の事を「可愛い」と言ってくれ、俺の幸せを「願っている」と言ってくれたトミ子さん。そんなトミ子さんに、嘘はつきたくなかった。

「俺は……」

 写真を見て、笑っている彼女を目に写す。そして意を決して、口にしてみた。

「俺は音羽さんと、会ってみたいです」
「……ふふ。嬉しいわ。ありがとう、正直に話してくれて」

 自分の気持ちを初めて言葉にできて、俺は嬉しかった。だけど、何故か――この時。俺よりもトミ子さんの方が、嬉しそうな顔をしていたのだった。
 だけど――
 俺が自分の気持ちを白状した日から、ほどなくして。トミ子さんの家に、トミ子さん本人がいなくなった。

「今日も、家の中が真っ暗だ……」

 どうしたんたろう。何かあったんだろうか。そう心配し始めた矢先、トミ子さんの家へ荷物を届ける事になった。
 今日は会えますように、と心配しながらトミ子さんの家に向かう俺。
 だけど――そこで待っていたのは、予想だにしない人だった。