「あの、柊さん。今――
 何か困っている事、ありますか?」

 音羽さんが、そういった時。
 薄らとだが、俺の目には――音羽さんとトミ子さんが、重なっているように見えた。

◇三週間前◇

「お届け物です」
「あら!若い配達員さんねぇ!待ってて、今ハンコを押すわね」

 見た目は、いかにも優しそうなおばあちゃん。名前をトミ子さんだと知ったのは、俺がこのエリアの担当になって、割とすぐの頃だった。

「今おいくつなの?」
「16です」
「あら!じゃあ孫と一緒だわ!高校1年生なのね?」
「そうです」
「まぁまぁ〜。若いのにアルバイトなんて、偉いわねぇ。ウチの孫ったら学校が楽しいのか、最近は連絡のひとつもよこさないのよ?」

 呆れた声を出すトミ子さん。俺は、よくある世間話だなくらいにしか思ってなくて、あまり親身に聞いていなかった。
 だけど、トミ子さんが次に口にする言葉を聞いて、俺のトミ子さんに対する見方が変わる。

「でも、便りがないのは元気な証拠って言うしね!毎日あの子が元気で幸せなら、それ以上は何も望まないわ」

 笑いながら、玄関に飾ってある写真に目をやるトミ子さん。俺と同じような年齢の女の子が、恥ずかしそうに笑いながらピースを作っている。きっと、この人がお孫さんなんだろうな。

「可愛い方ですね」
「あら、あらあら!そう言ってくれるの?すぐにでも会わせてあげるわよ!どう?」
「いえ、仕事中なので……」
「そう遠慮しないで〜」

 トミ子さんは大抵の物をネットで揃えるらしく、俺は頻繁に配達に行った。その都度に立ち話をしていたら、徐々にトミ子さんの人となりが分かって来た。
 トミ子さんは、突拍子の無いことをよく言うけど、決して無理強いする人ではなかった。ばかりか、仕事ばかりする俺の事を、心配さえもしてくれた。赤の他人の俺のことを、気遣ってくれたのだ。

「柊くん、あなた仕事ばかりしてない?」
「そんな事ないですよ」
「でも……。
 ねぇ、柊くん。私、自分の中に決まり事があるのよ。その話、ちょっと聞いてくれないかしら」
「?」

 トミ子さんの口癖。
 それは、この時から始まった。

「何か困っている事は無い?私ね、目の前で困っている人がいたら、つい手を貸してあげたくなるの。
 だから、困ってる事があれば聞かせて?」
「今は、特にありません」
「遠慮しなくていいから!」
「ほ、本当にないんです……」

 その問答は、トミ子さんが亡くなるまで、何度も何度も続いた。だけど不思議と、俺は嫌に思わなかった。むしろ、俺のことを気にかけてくれて有難いくらいだった。
 一人暮らしのトミ子さんは、俺と話せて嬉しそうだったけど、その実。俺の方こそ、トミ子さんに構って貰えて嬉しかったんだと思う。トミ子さんの家に行くのが、次第に楽しみになってきていたからだ。
 そんなある日、ふと気づいた。
 配達の度に、玄関に飾ってある写真が変わっている事に。