私が言うと、柊さんは優しく笑った。

「きっと、そうかと」
「“音羽ちゃん、助けてあげる”――優しいおばあちゃんが言いそうな言葉です」

 最初、おばあちゃんが”助けて”って言ってるのかと思った。だけど、そうじゃなかった。おばあちゃんは、いつも私の事を考えて、守ろうとしてくれてたんだ。

「よかった……っ」

 私が泣きそうになっているのを察して、柊さんが背中をポンポンと叩いてくれた。その目には、並べたひらがなが写っている。

「助けてあげる――っていうのは、きっと“お空から見守ってるよ”って。そういう事なんでしょうね」
「だとしたら嬉しいです。もう……優しすぎるよ、おばあちゃん」

 鼻声で「へへ」と笑うと、柊さんも掠れた声でポツリと呟く。

「俺のことも見てくれてたら嬉しいなぁ」
「おばあちゃんなら、きっと見てますよ。柊さんのこと」
「……はい。そうですね」

 嬉しそうな柊さんの横顔を間近で見て、二人の距離が近いと、初めて知る。恥ずかしくて、照れくさい。
 だけど、離れようとは思わなかった。
 だって、明日が七日目。
 荷物が届く、最後の日だから――

「なんだか、あっという間の一週間でしたね」

 私がそう言うと、柊さんは「色々ありましたけどね」と、眉を下げて笑った。その脳内には、私が熱中症で倒れた映像も流れているに違いない。私は「出来れば忘れてください」と、苦笑で返した。

「柊さん、明日もバイトですか?」
「そうです。七連勤ですよ」
「すごい、頑張り屋なんですね」

「ふふ」と笑う私に、「それだけが理由じゃないんですけどね」と柊さんは囁く。その声は小さくて、私の耳には届かなかった。

「ん?何か言いました?」
「いえ。では、俺はもう行きますね」
「はい、また明日です」
「また明日」

 ほのぼのと別れを告げた私たち。少しずつ家から離れていく柊さん。
 もう明日が最後か――と。長い間、私は柊さんの後ろ姿を見ていた。

 だけど、事態は一変する。

 それは、最終日の七日目。
 いつも通り段ボールを持ってきてくれた柊さんと一緒に、中にあるひらがなを確認した時だ。
 それを目にした時――これまでの私たちの予想は、いとも簡単にひっくり返った。
 なぜなら、箱の中にあったもの。
 それが、思いもよらない文字だったからだ。

「これは、一体……」
「ど、どういう事なんでしょう?」

 二人の目に写っているもの。
 それは「る」ではなく――「げ」。

 音羽ちゃん、助けてあげて

 おばあちゃんが伝えたかった事。
 その本当の意味に、ついに私たちはたどり着く。