「今、何か困っていますか?」
「え……?」

 私の眉の下がり具合を見て「図星」だと判断した配達員さんは、私と同じように眉を下げた。

「俺で良ければ聞きますよ。あなたの悩み事」
「え、でも……。どうして、そこまで?」

 すると配達員さんは、家の中をグルリと見渡す。そして「よく言われたんです」と困ったように、だけど嬉しそうに柔らかく笑った。

「”目の前の人が困っていたら助けてあげるんだよ”って、よくトミ子さんに言われたんです」
「おばあちゃんが?」
「トミ子さんの口癖でした。俺も何度も”困ったことはないか”って聞かれましたよ」
「そうなんですね……」

 知らなかった。おばあちゃんに、そんな口癖があったなんて。いつから言い始めたんだろう。全然、聞いたことが無かった。
 あ、そっか。私が連絡を取らなかったから、おばあちゃんと話をする機会がなかったんだ。だから、おばあちゃんの口癖を知らないのも、当たり前だよね。
 あぁ、私……本当にダメだなぁ。

「……~っ」
「え?あの、大丈夫ですか?」

 胸が苦しくて、おばあちゃんに申し訳なくて。涙が自然に、溢れ出た。そんな私を見て驚いた配達員さんが、今度は私の顔を覗きこむ。すると、途端に交わる二人の視線。
 その時に見た配達員さんの瞳は、驚くほど真っすぐだった。その眼差しが、荒れた私の心を撫でてくれた気がして、不思議と落ち着いてくる。

「泣いちゃった……。すみません、取り乱しちゃって」
「え?」
「恥ずかしい……。あの、忘れてください……」
「――はは」

 配達員さんが、目を細めて笑った。
 初めて聞いた配達員さんの笑い声は、すごく静かだった。

「すみません。あなたはもっと大人っぽい人かと、そう勝手に思っていたんです」
「私が……?全然ですよ、どうしようもない子供です」
「はは。なら――泣きたいだけ、泣いてください。泣くのは子供の仕事ですから」

 配達員さんの声が、まるで子守歌のように、私の体にジワジワと浸透していく。この人の声をずっと聞いていたい――なんて。そんな事さえ思った。
 一方の配達員さんは「決まりですね」と、玄関に腰かける。そして自転車の後ろカゴから持って来ていた段ボールを、自分の膝の上に置いた。