「え……本気で言ってる? あたし、異国のあやかしの血を引いてると思うわよ? 火を出すとか、人間が出来ないこと出来ちゃうし」

「問題ない。祓魔師や陰陽師の家に、あやかしの血が入ることは、珍しいけど絶対にないわけじゃないんだ。現に、あの安倍晴明だって天狐や(てんこ)空狐(くうこ)の息子だって言われてるくらいだ」

「てんこ? くうこ……?」

「天狐は千年生きた狐で、空狐は一万年生きた狐のことだ」

「いや、安倍晴明って、歴史上の人物っていうか、すごすぎてそういう伝説あるだけでしょ?」

「なら、小路流って知ってる? 陰陽師の二大大家(たいか)のひとつなんだけど」

「名前……くらいは」

「その小路流の次期当主は、父親があやかしだよ」

「……えっ!?」

「そういうこと。夢宮家にとって天瀬は天敵みたいな存在かもしれないから俺も躊躇してたけど、永久子の心配が、自分が天瀬に入ることにあるのなら、俺がどうにかする」

「そ、そうだけど――反対とかされるでしょ? 和仁の立場が悪くなったり……」

「反対はされると思う。でも、説得するし、反論できないくらいの功績をあげる。実力主義だから、うち」

――実力主義。

天瀬は世襲制ではない。

祖父は己の力と才で当主となり、父もまた、実力を認めさせて次期当主となった。

父が祖父以上の影響力を持っているのは、祖父以上の力を持っているからだ。

そしてまた、和仁も。

和仁は、父の次に当主候補となれる者の中で、一番の実力者だ。

誰もが父の後は和仁だろうと思っている。

だが、自分こそが、自分の子供こそがという企みがある者は皆無ではない。

それを超えて上に行き、抑え続けるのが和仁がやらねばならないことでもある。

「だから、永久子。どうか俺の手を取ってください。障害になることはたくさんあると思う。でも、俺が一緒にいたいのは永久子なんだ。……お願いします」

その言葉を聞いた永久子は大きく瞬いた。それからふっと唇の端がゆるむ。

「いいの? あたしのお父さん説得するとかすごい大変だと思うよ?」

「うん、頑張る。気合い入れて頑張る」

真面目な顔で答える和仁に、永久子はとうとう小さくふきだした。

「ありがとう、和仁。……よろしくお願いします」

「こ、こちらこそよろしくお願いします」

さっきまでぎこちなかった二人が、笑顔で手を繋いで歩いている。