「グラムロック、一体どこから」
「わざわざ説明してやる義理はない」
ノルンを傷つけられたことに静かに怒りを燃やし、グラムは丸盾で強烈にハルペーを弾き返した。グラムのパワーには抗いきれず、アラングレンの体は大きく後退する。
「大丈夫か、ノルン」
「……この程度、戦争時に比べたらどうということはありません。グラム様はどうやってお戻りに?」
「ノルンを救ってほしいという、シグリやレンカ、クリムヒルデの願いが俺をここまで導いた」
グラムの登場にシグリとレンカは泣きそうな顔で抱き合い。クリムヒルデも肩の荷が下りたように安堵の溜息を漏らしている。三人の希望を肯定するように、グラムは力強く頷いた。
「もちろん出先の危機も救ってきた。この盾は戦利品だ」
ワープした先で野盗に襲われていた旅行者たちの安全は無事に確保してきた。盾は野盗の一人から拝借してきたものだ。
戦利品と呼んだその盾を、グラムは振り向きざまに投擲。こちらへ斬りかかろうとしていたアラングレンへの牽制とした。どこにでも売っている大量生産品なので、手放しても惜しくはない。突然飛来した丸盾をハルペーで受け流したため、アラングレンは攻撃のタイミングを見失う。
「ノルン、怪我をしているところ申し訳ないがあれを取り出してくれ。アラングレン相手に武器無しでは辛い」
「承知しました」
ノルンは魔導系スキル「無限の鞘」を発動した。異なる場所に保管してある武器を任意で、瞬時に呼び出すことが出来るとても便利なスキルだ。
何もない空間から突如、閃光と共に黒い両手剣が出現。グラムが即座にそれを掴み取った。
氷結戦争時から愛用している頑丈な黒い両手剣。有事に備えて手入れは欠かしていなかったが、実戦で振るうのは氷結戦争終結以来となる。勇者級同士の戦闘だ。万全の状態で臨まねばこちらがやられる。
「ありがとうノルン。後は俺に任せて、お前は下がっていろ」
「安心してお任せいたします」
アラングレンがノルンに手出しできないよう、グラムは両手剣の切っ先を向けたまま、一挙手一投足を注視している。アラングレンとてグラム程の男に睨みを効かされては、軽率な行動は取れない。その間に負傷したノルンにクリムヒルデが肩を貸し、シグリたちの元まで後退させた。
「ノルンを傷つけた代償は高くつくぞ、アラングレン」
経緯の全てを把握しているわけではないが、アラングレンがノルンの命を狙っていると理解した時点で戦う理由は十分だ。元戦友として、説得が通じるような相手でないこともよく分かっている。
「悲しいな。君はすっかりあの女スパイに骨抜きにされてしまったらしい。いいだろう、先ずは君の目を覚まさせてやる!」
グラムをどうにかしなければノルンに攻撃は届かない。即座に意識を切り替え、アラングレンは戦友と相対する覚悟を決めた。殺しはしない。あくまでも戦闘不能に持ち込むだけ。目を覚まさせるためなら、手足の一本くらいは奪う必要があるかもしれない。
「風の噂で君は隠居していると聞いていた。大戦時にあれだけの活躍をしたというのに勿体ないね」
「俺の人生だ。戦後に何をしようと俺の勝手だろう」
クロスさせて振り下ろしてきたハルペーを、グラムロックが真正面から受け止め、両者顔を突き合わせる。争いの中とはいえ戦友同士の数年振りの再会だ。気乗りするかは別として、話題には事欠かない。
「あのガキどもは何だい? 随分と君やあの女スパイに懐いている様子だけど」
「お前には関係のない話しだ」
「関係はないけど興味はある。あの少女と和装の娘、どことなく君と女スパイに懐いていた姉弟の姿にだぶる。生きていれば、年の頃も同じくらいじゃないかな?」
「想像力豊かで羨ましいよ」
「あの年長の勝気な女はそうそう。確か君の妹さんが、生きていればあれぐらいの年齢だったかな」
「口の減らない野郎だ」
グラムが強引に二刀のハルペーを弾き返し、膠着を解いた。やはり戦闘中に無駄話などするものではない。
挑発だと理解しているからこそ冷静さを保っているが、シグリ達はもちろん、亡くなったマルコやカーラ、妹のことを挑発の材料にされることは不愉快だ。剣圧には確かに感情が乗っていた。
「アラングレン。何がお前をここまで駆り立てる。氷結戦争はもう終わったんだぞ?」
「僕の中で、氷結戦争は終わってなんかいない!」
アラングレンが低い姿勢から、剣術系スキル「崩足一閃」でグラムの足元を狙った。グラムは即座に軌道上に両手剣を突き立てガード。衝撃まで完全に殺し切った。アラングレンは攻撃の手を緩めず、すぐさま姿勢を高くし、二本のハルペーによる目まぐるしい連撃を打ち込んでいく。
「僕が初めて戦場で出会った氷魔軍の兵士はね、異種族同士でも友情は築けはずだと言って僕らに擦り寄って来た! 今からでも過去に戻って、あの頃の、無条件に甘言を受け入れた思慮の浅い自分をぶん殴ってやりたいよ……正体を現した氷魔軍の兵士は、僕と親友を言葉巧みに本隊から孤立させ、忍ばせていた伏兵と共に一斉に襲い掛かって来た。奴らにとってあれは単なるゲーム。普通の殺しには飽きたから、信頼関係を築いた上で殺すという趣向を凝らしたのさ。その方が殺される側の絶望感は強くなるからね……奴らは命乞いをする僕の親友を、生きたまま、苦痛が長引くような方法で惨殺した。あの光景が脳裏に焼き付いて離れない……あんな惨い仕打ちをする奴らを生かしておけない! 甘言で擦り寄ってくる卑怯者を許しておくわけにはいかない! 氷魔軍に属する者は例外なく殺すべきなんだ! 故郷を失った君にも僕の気持ちは分かるはずだろう!」
饒舌になるにつれアラングレンは冷静さを失っていく。感情を刃で訴えかけるかのように、攻撃速度を上げていく。しかし、激情で加速した刃は速度こそ驚異的だが、思考が伴わない分、太刀筋は単調で読みやすい。グラムロックは得物の強度を信じ、冷静に一太刀一太刀を受け流していく。
「確かに氷魔軍は恐ろしい相手だった。悪鬼羅刹としか言いようのない残虐な連中もたくさんいた。だけど、全員が全員そうだったわけではない。少なくともノルンは違う」
「違わないさ! 氷魔軍なんてどいつも一緒だ。平和な時代が訪れたならばなおのこと! あんな悲劇を繰り返さないためにも、危険の芽は早々に摘み取らなければいけない。スパイ共はきっと将来、新たな戦乱をミルドアースへともたらすに決まっている。僕の行為は正義だ! 正義は僕にある!」
「お前の言う正義がどれほどのものか、試してやるよ」
グラムは至近距離で衝撃を打ち込む剣術系スキル「剣衝」でハルペーを弾き、アラングレンに強制的に距離を取らせた。
「実力は拮抗している。長々と斬り合ったところで時間の無駄だろう。互いの本気の一撃で勝負を決めないか」
「いいだろう。あくまで君が僕の行く手を阻むというのなら、全力を持って膝をつかせてやる」
アラングレンはグラムの提案を快く受け入れた。挑発に刺激された部分もあるが、グラム程の男を相手に出し惜しみしている場合でないこともまた事実だ。
アラングレンがハルペーをクロスさせた状態で構える。氷結戦争時より彼が最も得意とし、最も破壊力の高い技。かつてのアルミュール砦の戦いでもウェンディゴに傷を刻み込んだ剣術系スキル「刀罰」の構えだ。あの頃よりもレベルは20以上も向上し、破壊力は各段に上昇している。
対するグラムは両手剣を引き刺突の構えを取る。発動する剣術系スキルは、同じくかつてのウェンディゴ戦でも使用した「剣穿突貫」だ。
「行くぞ!」
「僕こそが正義だ!」
合図もなく、示し合わせたかのように両者同時に駆け出し、中心点で両手剣とクロスさせたハルペーが激しく接触した。
一瞬の静寂の後、土煙を纏った凄まじい衝撃波がグラムとアラングレンを中心に発生。ピクニック用にシグリ達が敷いたレジャーシートや、サンドイッチを入れていたバスケットなどが吹き飛んだ。衝撃波が止み土煙が晴れてくると、衝撃の中心にいたグラムとアラングレンの姿が徐々に明らかになっていく。
「……グラムロック、始めから狙っていたな」
「感情的に攻撃を打ち込みすぎたな。俺の剣は強度が自慢でね」
クロスさせたアラングレンのハルペーが罅割れ、粉々に砕け散った。グラムの持つ両手剣は接触面が微かに欠けたものの、本体は原型を留めており無事だ。
グラムの狙いは始めから武器を破壊することにあった。アラングレンを黙らせるには、彼の攻撃性の象徴でもあるハルペーを破壊するのが最も効果的だ。物理と精神、二重に戦意をへし折ることが出来る。
勇者級同士の打ち合いで武器が損耗しないはずがない。アラングレンが感情の赴くまま、荒々しく斬撃を打ち込んできたのに対し、グラムは自身の得物の強度を信頼し、硬度に優れる部位で的確に弾き返すことで、ハルペーだけが疲労を貯め込むように仕向けていた。
加えて、アラングレンが魔導耐性にもステータスを振っているのに対し、グラムは極端なまでに物理特化型。僅かながらレベルもグラムの方が上であり、近接戦闘ではグラムの方にアドバンテージがあった。
スキル面でも、アラングレンは元氷魔軍関係者に多い魔導士を狩ることに執着し過ぎたあまり、魔導耐性上昇や状態異常対策、不意打ちや搦め手に特化したスキルばかりを所有している。物理防御の低い魔導士相手ならば有効的な構成であったが、物理特化型のグラム相手では相性は微妙だ。
「感情的にならず、長期戦に持ち込めばあるいはお前にも勝機があったかもな」
グラム自身、他にも強力な剣術系スキルは幾つか有しているが、あえて選択したのは対象の破壊に特化した「剣穿突貫」であった。武器破壊を目指すのに一番効果的な攻撃だ。そうしてグラムの目論見通り、アラングレンのハルペーの耐久は限界を迎えた。
感情的に激論を交わしてるように見えて、グラムはあくまでも冷静な判断の下に行動していたのだ。感情を乗せてしまったのは到着直後の盾での攻撃と、大切な人達の名前を挑発に使われた際の二回だけである。
「わざわざ説明してやる義理はない」
ノルンを傷つけられたことに静かに怒りを燃やし、グラムは丸盾で強烈にハルペーを弾き返した。グラムのパワーには抗いきれず、アラングレンの体は大きく後退する。
「大丈夫か、ノルン」
「……この程度、戦争時に比べたらどうということはありません。グラム様はどうやってお戻りに?」
「ノルンを救ってほしいという、シグリやレンカ、クリムヒルデの願いが俺をここまで導いた」
グラムの登場にシグリとレンカは泣きそうな顔で抱き合い。クリムヒルデも肩の荷が下りたように安堵の溜息を漏らしている。三人の希望を肯定するように、グラムは力強く頷いた。
「もちろん出先の危機も救ってきた。この盾は戦利品だ」
ワープした先で野盗に襲われていた旅行者たちの安全は無事に確保してきた。盾は野盗の一人から拝借してきたものだ。
戦利品と呼んだその盾を、グラムは振り向きざまに投擲。こちらへ斬りかかろうとしていたアラングレンへの牽制とした。どこにでも売っている大量生産品なので、手放しても惜しくはない。突然飛来した丸盾をハルペーで受け流したため、アラングレンは攻撃のタイミングを見失う。
「ノルン、怪我をしているところ申し訳ないがあれを取り出してくれ。アラングレン相手に武器無しでは辛い」
「承知しました」
ノルンは魔導系スキル「無限の鞘」を発動した。異なる場所に保管してある武器を任意で、瞬時に呼び出すことが出来るとても便利なスキルだ。
何もない空間から突如、閃光と共に黒い両手剣が出現。グラムが即座にそれを掴み取った。
氷結戦争時から愛用している頑丈な黒い両手剣。有事に備えて手入れは欠かしていなかったが、実戦で振るうのは氷結戦争終結以来となる。勇者級同士の戦闘だ。万全の状態で臨まねばこちらがやられる。
「ありがとうノルン。後は俺に任せて、お前は下がっていろ」
「安心してお任せいたします」
アラングレンがノルンに手出しできないよう、グラムは両手剣の切っ先を向けたまま、一挙手一投足を注視している。アラングレンとてグラム程の男に睨みを効かされては、軽率な行動は取れない。その間に負傷したノルンにクリムヒルデが肩を貸し、シグリたちの元まで後退させた。
「ノルンを傷つけた代償は高くつくぞ、アラングレン」
経緯の全てを把握しているわけではないが、アラングレンがノルンの命を狙っていると理解した時点で戦う理由は十分だ。元戦友として、説得が通じるような相手でないこともよく分かっている。
「悲しいな。君はすっかりあの女スパイに骨抜きにされてしまったらしい。いいだろう、先ずは君の目を覚まさせてやる!」
グラムをどうにかしなければノルンに攻撃は届かない。即座に意識を切り替え、アラングレンは戦友と相対する覚悟を決めた。殺しはしない。あくまでも戦闘不能に持ち込むだけ。目を覚まさせるためなら、手足の一本くらいは奪う必要があるかもしれない。
「風の噂で君は隠居していると聞いていた。大戦時にあれだけの活躍をしたというのに勿体ないね」
「俺の人生だ。戦後に何をしようと俺の勝手だろう」
クロスさせて振り下ろしてきたハルペーを、グラムロックが真正面から受け止め、両者顔を突き合わせる。争いの中とはいえ戦友同士の数年振りの再会だ。気乗りするかは別として、話題には事欠かない。
「あのガキどもは何だい? 随分と君やあの女スパイに懐いている様子だけど」
「お前には関係のない話しだ」
「関係はないけど興味はある。あの少女と和装の娘、どことなく君と女スパイに懐いていた姉弟の姿にだぶる。生きていれば、年の頃も同じくらいじゃないかな?」
「想像力豊かで羨ましいよ」
「あの年長の勝気な女はそうそう。確か君の妹さんが、生きていればあれぐらいの年齢だったかな」
「口の減らない野郎だ」
グラムが強引に二刀のハルペーを弾き返し、膠着を解いた。やはり戦闘中に無駄話などするものではない。
挑発だと理解しているからこそ冷静さを保っているが、シグリ達はもちろん、亡くなったマルコやカーラ、妹のことを挑発の材料にされることは不愉快だ。剣圧には確かに感情が乗っていた。
「アラングレン。何がお前をここまで駆り立てる。氷結戦争はもう終わったんだぞ?」
「僕の中で、氷結戦争は終わってなんかいない!」
アラングレンが低い姿勢から、剣術系スキル「崩足一閃」でグラムの足元を狙った。グラムは即座に軌道上に両手剣を突き立てガード。衝撃まで完全に殺し切った。アラングレンは攻撃の手を緩めず、すぐさま姿勢を高くし、二本のハルペーによる目まぐるしい連撃を打ち込んでいく。
「僕が初めて戦場で出会った氷魔軍の兵士はね、異種族同士でも友情は築けはずだと言って僕らに擦り寄って来た! 今からでも過去に戻って、あの頃の、無条件に甘言を受け入れた思慮の浅い自分をぶん殴ってやりたいよ……正体を現した氷魔軍の兵士は、僕と親友を言葉巧みに本隊から孤立させ、忍ばせていた伏兵と共に一斉に襲い掛かって来た。奴らにとってあれは単なるゲーム。普通の殺しには飽きたから、信頼関係を築いた上で殺すという趣向を凝らしたのさ。その方が殺される側の絶望感は強くなるからね……奴らは命乞いをする僕の親友を、生きたまま、苦痛が長引くような方法で惨殺した。あの光景が脳裏に焼き付いて離れない……あんな惨い仕打ちをする奴らを生かしておけない! 甘言で擦り寄ってくる卑怯者を許しておくわけにはいかない! 氷魔軍に属する者は例外なく殺すべきなんだ! 故郷を失った君にも僕の気持ちは分かるはずだろう!」
饒舌になるにつれアラングレンは冷静さを失っていく。感情を刃で訴えかけるかのように、攻撃速度を上げていく。しかし、激情で加速した刃は速度こそ驚異的だが、思考が伴わない分、太刀筋は単調で読みやすい。グラムロックは得物の強度を信じ、冷静に一太刀一太刀を受け流していく。
「確かに氷魔軍は恐ろしい相手だった。悪鬼羅刹としか言いようのない残虐な連中もたくさんいた。だけど、全員が全員そうだったわけではない。少なくともノルンは違う」
「違わないさ! 氷魔軍なんてどいつも一緒だ。平和な時代が訪れたならばなおのこと! あんな悲劇を繰り返さないためにも、危険の芽は早々に摘み取らなければいけない。スパイ共はきっと将来、新たな戦乱をミルドアースへともたらすに決まっている。僕の行為は正義だ! 正義は僕にある!」
「お前の言う正義がどれほどのものか、試してやるよ」
グラムは至近距離で衝撃を打ち込む剣術系スキル「剣衝」でハルペーを弾き、アラングレンに強制的に距離を取らせた。
「実力は拮抗している。長々と斬り合ったところで時間の無駄だろう。互いの本気の一撃で勝負を決めないか」
「いいだろう。あくまで君が僕の行く手を阻むというのなら、全力を持って膝をつかせてやる」
アラングレンはグラムの提案を快く受け入れた。挑発に刺激された部分もあるが、グラム程の男を相手に出し惜しみしている場合でないこともまた事実だ。
アラングレンがハルペーをクロスさせた状態で構える。氷結戦争時より彼が最も得意とし、最も破壊力の高い技。かつてのアルミュール砦の戦いでもウェンディゴに傷を刻み込んだ剣術系スキル「刀罰」の構えだ。あの頃よりもレベルは20以上も向上し、破壊力は各段に上昇している。
対するグラムは両手剣を引き刺突の構えを取る。発動する剣術系スキルは、同じくかつてのウェンディゴ戦でも使用した「剣穿突貫」だ。
「行くぞ!」
「僕こそが正義だ!」
合図もなく、示し合わせたかのように両者同時に駆け出し、中心点で両手剣とクロスさせたハルペーが激しく接触した。
一瞬の静寂の後、土煙を纏った凄まじい衝撃波がグラムとアラングレンを中心に発生。ピクニック用にシグリ達が敷いたレジャーシートや、サンドイッチを入れていたバスケットなどが吹き飛んだ。衝撃波が止み土煙が晴れてくると、衝撃の中心にいたグラムとアラングレンの姿が徐々に明らかになっていく。
「……グラムロック、始めから狙っていたな」
「感情的に攻撃を打ち込みすぎたな。俺の剣は強度が自慢でね」
クロスさせたアラングレンのハルペーが罅割れ、粉々に砕け散った。グラムの持つ両手剣は接触面が微かに欠けたものの、本体は原型を留めており無事だ。
グラムの狙いは始めから武器を破壊することにあった。アラングレンを黙らせるには、彼の攻撃性の象徴でもあるハルペーを破壊するのが最も効果的だ。物理と精神、二重に戦意をへし折ることが出来る。
勇者級同士の打ち合いで武器が損耗しないはずがない。アラングレンが感情の赴くまま、荒々しく斬撃を打ち込んできたのに対し、グラムは自身の得物の強度を信頼し、硬度に優れる部位で的確に弾き返すことで、ハルペーだけが疲労を貯め込むように仕向けていた。
加えて、アラングレンが魔導耐性にもステータスを振っているのに対し、グラムは極端なまでに物理特化型。僅かながらレベルもグラムの方が上であり、近接戦闘ではグラムの方にアドバンテージがあった。
スキル面でも、アラングレンは元氷魔軍関係者に多い魔導士を狩ることに執着し過ぎたあまり、魔導耐性上昇や状態異常対策、不意打ちや搦め手に特化したスキルばかりを所有している。物理防御の低い魔導士相手ならば有効的な構成であったが、物理特化型のグラム相手では相性は微妙だ。
「感情的にならず、長期戦に持ち込めばあるいはお前にも勝機があったかもな」
グラム自身、他にも強力な剣術系スキルは幾つか有しているが、あえて選択したのは対象の破壊に特化した「剣穿突貫」であった。武器破壊を目指すのに一番効果的な攻撃だ。そうしてグラムの目論見通り、アラングレンのハルペーの耐久は限界を迎えた。
感情的に激論を交わしてるように見えて、グラムはあくまでも冷静な判断の下に行動していたのだ。感情を乗せてしまったのは到着直後の盾での攻撃と、大切な人達の名前を挑発に使われた際の二回だけである。