「大丈夫かおっさん? あまり顔色が良くないみたいだが」
平原の氷魔軍を殲滅後、片膝を立てて地面へと座り込むマックスの下へグラムロックが駆け寄った。目立った負傷は無いようだが、顔色が悪く息も上がっている。
「心配ない、少し疲れだけだ。俺もそろそろ歳かね」
「あまり無理はするなよ」
機敏に立ち上がったマックスは、笑顔で肩を竦めておどけてみせる。
そこまで深刻そうではないし、本人が気にするなと言っている以上、グラムロックは苦笑顔で労わるだけに留めた。
マックスが病を隠して戦場に臨んでいたことを、グラムロックが知ることとなるのは6年近くも先、彼が亡くなった後のこととなる。共に戦場を駈けながらもその間、自身の不調についてほとんど悟らせなかったマックスという男性は、とても演技派であった。
「さてと、ここは片付いたわけだが、これからどうする?」
「氷魔軍のトリルハイムへの侵攻がこれで終わりだという保証はない。一先ずは拠点であるアルミュール砦に戻って情報を収集――」
異変は突如として現れた。
話題に上げた直後、アルミュール砦の方角から凄まじい轟音が鳴り響く。僅かなタイムラグの後、体感を伴う地揺れがグラムロック達の立つ平原にまで到達した。
「何が起こった!」
「アルミュール砦に待機している魔導士から緊急連絡!」
焦りを含むウルスラの声に、緊張感が一気に高まっていく。魔導スキルによって、アルミュール砦からウルスラへ向けて緊急事態を告げる連絡が届いたのだ。アルミュール砦には、トリルハイム領政府関係者や避難してきている近隣住民、そして、ノルンアークが命を懸けて救ったカーラとマルコの姉弟も避難している。
不安を抑えきれず、ノルンアークは祈るようにして目を伏せている。
「突如、アルミュール砦の上空より一体の氷塊巨人が出現、即時落下。被害甚大、迅速な救援を求めるとのこと」
「くそっ!」
「……そんな、カーラ、マルコ」
グラムロックは怒りに拳を握りしめ、ノルンアークは最悪の状況を想像し、悲しみに声を震わせている。
先程の轟音と揺れは、巨大な氷塊巨人がアルミュール砦へと落下した際に発生した衝撃だったのだろう。突然出現した以上、氷魔軍が何らかのワープスキルによって氷塊巨人を砦の上空へと転送したのだろうが、どのようなスキルを、一体どれだけの人数の魔導士によって発動させたのかまるで見当がつかない。
いずれにせよ、このような状況は誰も想定していなかった。前例がない状態で、突如として上空から巨大な氷塊巨人が落下してくる可能性を予測することなど、まず不可能であろう。
「……とにかく、放っておくわけにはいかない。急ぎアルミュール砦へと引き返すぞ」
アルミュール砦までは、グラムロックやアラングレンの足でも30分程度はかかってしまう。ワープスキルを扱える者も部隊の中にはおらず(ノルンアークもこの時点ではワープ系のスキルは取得していない)、この時間はあまりにも絶望的な数字と思えた。勇者級でなければ太刀打ち出来ない氷塊巨人が非戦闘員ばかりの場所を襲撃したなら、地獄絵図は想像に難くない。
「負傷者は近くの村で指示があるまで待機。補給として回復アイテムが備蓄されているから、回復して次の状況に備えろ」
戦士達の命を無駄に散らせるわけにはいかない。負傷者やレベルの低い一部の者は、近くの村に残していくことをグラムロックは即断した。
「俺は加勢するぜ。戦闘は厳しいかもしれないが、生存者を救出するくらいは出来るだろう」
マックスは病の影響を気合いで押しとどめ参加を表明。相手が氷塊巨人ともなれば戦闘面で出る幕は無いが、グラムロック達が戦闘だけに集中出来るよう、生存者の運び出しぐらいは出来るだろう。
「ありがとう、おっさん。ノルンアークも行けるな?」
「……もちろんです。希望は捨てません。カーラや、マルコ、砦の人々を救出せねば」
緊急事態に対するショックは大きいがまだ希望が失われたわけではない。ノルンアークは己を律して立ち上がる。戦闘能力はもちろんのこと、氷魔軍の内情を知る者として、未知の氷塊巨人が出現した場合のアドバイザーとしてもノルンアークの存在は大きい。
勇者級であるウルスラとアラングレンは、何時でも出立出来るようすでに準備を整えている。アラングレンはもの言いたげな表情ながらも、この時ばかりは無言で口を真一文字に結んでいる。茶々を入れて時間を無駄にするわけにはいかないからだ。
「行くぞ!」
近接戦闘のエキスパートであるグラムロックとアラングレンが先陣を切り、部隊は急ぎアルミュール砦へと駈ける。
平原の氷魔軍を殲滅後、片膝を立てて地面へと座り込むマックスの下へグラムロックが駆け寄った。目立った負傷は無いようだが、顔色が悪く息も上がっている。
「心配ない、少し疲れだけだ。俺もそろそろ歳かね」
「あまり無理はするなよ」
機敏に立ち上がったマックスは、笑顔で肩を竦めておどけてみせる。
そこまで深刻そうではないし、本人が気にするなと言っている以上、グラムロックは苦笑顔で労わるだけに留めた。
マックスが病を隠して戦場に臨んでいたことを、グラムロックが知ることとなるのは6年近くも先、彼が亡くなった後のこととなる。共に戦場を駈けながらもその間、自身の不調についてほとんど悟らせなかったマックスという男性は、とても演技派であった。
「さてと、ここは片付いたわけだが、これからどうする?」
「氷魔軍のトリルハイムへの侵攻がこれで終わりだという保証はない。一先ずは拠点であるアルミュール砦に戻って情報を収集――」
異変は突如として現れた。
話題に上げた直後、アルミュール砦の方角から凄まじい轟音が鳴り響く。僅かなタイムラグの後、体感を伴う地揺れがグラムロック達の立つ平原にまで到達した。
「何が起こった!」
「アルミュール砦に待機している魔導士から緊急連絡!」
焦りを含むウルスラの声に、緊張感が一気に高まっていく。魔導スキルによって、アルミュール砦からウルスラへ向けて緊急事態を告げる連絡が届いたのだ。アルミュール砦には、トリルハイム領政府関係者や避難してきている近隣住民、そして、ノルンアークが命を懸けて救ったカーラとマルコの姉弟も避難している。
不安を抑えきれず、ノルンアークは祈るようにして目を伏せている。
「突如、アルミュール砦の上空より一体の氷塊巨人が出現、即時落下。被害甚大、迅速な救援を求めるとのこと」
「くそっ!」
「……そんな、カーラ、マルコ」
グラムロックは怒りに拳を握りしめ、ノルンアークは最悪の状況を想像し、悲しみに声を震わせている。
先程の轟音と揺れは、巨大な氷塊巨人がアルミュール砦へと落下した際に発生した衝撃だったのだろう。突然出現した以上、氷魔軍が何らかのワープスキルによって氷塊巨人を砦の上空へと転送したのだろうが、どのようなスキルを、一体どれだけの人数の魔導士によって発動させたのかまるで見当がつかない。
いずれにせよ、このような状況は誰も想定していなかった。前例がない状態で、突如として上空から巨大な氷塊巨人が落下してくる可能性を予測することなど、まず不可能であろう。
「……とにかく、放っておくわけにはいかない。急ぎアルミュール砦へと引き返すぞ」
アルミュール砦までは、グラムロックやアラングレンの足でも30分程度はかかってしまう。ワープスキルを扱える者も部隊の中にはおらず(ノルンアークもこの時点ではワープ系のスキルは取得していない)、この時間はあまりにも絶望的な数字と思えた。勇者級でなければ太刀打ち出来ない氷塊巨人が非戦闘員ばかりの場所を襲撃したなら、地獄絵図は想像に難くない。
「負傷者は近くの村で指示があるまで待機。補給として回復アイテムが備蓄されているから、回復して次の状況に備えろ」
戦士達の命を無駄に散らせるわけにはいかない。負傷者やレベルの低い一部の者は、近くの村に残していくことをグラムロックは即断した。
「俺は加勢するぜ。戦闘は厳しいかもしれないが、生存者を救出するくらいは出来るだろう」
マックスは病の影響を気合いで押しとどめ参加を表明。相手が氷塊巨人ともなれば戦闘面で出る幕は無いが、グラムロック達が戦闘だけに集中出来るよう、生存者の運び出しぐらいは出来るだろう。
「ありがとう、おっさん。ノルンアークも行けるな?」
「……もちろんです。希望は捨てません。カーラや、マルコ、砦の人々を救出せねば」
緊急事態に対するショックは大きいがまだ希望が失われたわけではない。ノルンアークは己を律して立ち上がる。戦闘能力はもちろんのこと、氷魔軍の内情を知る者として、未知の氷塊巨人が出現した場合のアドバイザーとしてもノルンアークの存在は大きい。
勇者級であるウルスラとアラングレンは、何時でも出立出来るようすでに準備を整えている。アラングレンはもの言いたげな表情ながらも、この時ばかりは無言で口を真一文字に結んでいる。茶々を入れて時間を無駄にするわけにはいかないからだ。
「行くぞ!」
近接戦闘のエキスパートであるグラムロックとアラングレンが先陣を切り、部隊は急ぎアルミュール砦へと駈ける。