「これまた物騒な状況だな、おい」
グラムは過去二回とはまた赴きの異なる、特殊な場所へワープしていた。降り立った場所はどうやら、どこかの村の広場に設けられた処刑台の上らしい。
どうしてここが処刑台だと分かったかというと、後ろ手に手枷を、足に重い鉄球をはめられた、亜麻色の髪をハーフアップにまとめた女騎士と、その右隣に立つ、首を刎ねる処刑用の大斧を携えた男の姿を確認したからだ。処刑人と思われる黒衣の男は、突然の闖入者の存在に、処刑人らしからぬ表情で呆気に取られている。
なかなか衝撃的な現場であるが故に、レンカの時と異なり状況の把握は容易だ。助けを求めたのは罪人として処刑されそうになっている目の前の女騎士。彼女に迫る危機は大斧による処刑と見て間違いないだろう。
「何だ貴様は！」
「助けを求めたのは君か？」
処刑人から荒々しい、それでいて真っ当な疑問が飛び出すが、グラムはそれを無視して目の前の女騎士へと問いかける。女騎士も当初は驚愕に目を見開いていたが、核心をついたグラムの発言に希望を見出し、その瞳に再起の意志を取り戻す。
「確かに私は天に助命を求めた。貴殿はその願いに応えてくれるというのか？」
「今は全力でその願いに応えよう。事情は後で聞く」
状況だけで判断するなら、処刑されようとしている彼女を善と捉えるのは早計かもしれない。しかし、この場所へワープしてきた瞬間から、グラムは様々な違和感を抱いていた。
処刑台周辺には一般市民の姿はない。住居にも生活感が無いので、この場所は恐らく廃村であろう。
処刑台を囲むのは騎士風の屈強な男達ばかり。注目すべきはその表情だ。何らかの背反行為を働いた同僚に対する厳罰としての処刑の場にしては、ほとんどの者が品の無い下卑た笑みばかり浮かべている。また、騎士に混じって一部、堅気とは思えない、ならず者らしき男達の姿も目立つ。
正当な処刑だというのならば余所者が口出しすべきではないだろうが、状況から察するにこの処刑には、何やら陰謀渦巻く気配が感じられた。
「何者かは知らぬが、その女を助けようとするならば貴様もまた同罪。今この場で処刑する」
リーダー格らしき、カイザル髭が印象的な中年の騎士の決定を受け、処刑人がグラムに狙いを定めて大斧を振り被る。拘束されたままの女騎士よりも、邪魔者のグラムを先に始末すべきと判断したようだ。
「脳天をかち割ってくれる！」
大斧が振り下ろされるよりも早く、グラムは瞬間的に、右手に握る長ネギを振り抜いた。
処刑台は狭く、回避すれば女性騎士に被害が及ぶ可能性がある。食べ物を粗末にするのは気が引けるが、武器として利用出来そうな物が他に無いので今は仕方がない。
「がっ――」
グラムの振るった長ネギが処刑人の腹部へと直撃。ネギの接触自体は大したダメージではないが、グラムの膂力により発生した衝撃が、長ネギを介して処刑人の体を貫いた。「手加減」スキルを使用しているため命までは奪っていないが、処刑人は一撃で気絶。斧を手にしたまま、その場で膝を折って倒れ込んだ。
「女の救出に来ただけあってなかなかやる。全員で取り囲め！」
カイザル髭の騎士の指示の下、十数名の騎士やならず者たちが処刑台周辺を取り囲む。逃げ道を塞いだうえで、次から次へと騎士達が処刑台を上って来るが、
――事情を把握しないまま、これ以上暴れるのは遠慮しておくか。
今回の相手は盗賊や野生の魔物ではなく、騎士という社会的地位を有した者達。事情を把握しないまま、考え無しに暴れるのは得策ではないだろう。処刑人をノックアウトした時点で大いに関わってしまっているが、グラムの身元が割れていない以上、誤魔化しは効くだろう。
「拘束を解くのはもう少し待ってくれ。今はこの場を離脱することを優先する」
「しかし、周辺を奴らに囲まれている。どうやって脱出するのだ？」
「こうする！」
「きゃっ！」
グラムが女騎士を軽々とお姫様抱っこの形で抱える。突然の出来事に、冷静な印象だった女騎士から可愛らしい悲鳴が上がった。
「しっかり掴まってろよ！」
女騎士の返答も聞かぬまま、グラムは勢いよく処刑台の上から跳躍。処刑台周辺を取り囲む騎士やならず者の頭上を高々と超え、十数メートルは離れた煉瓦造りの家屋の屋根へと飛び移ってしまった。レベル８５のグラムのステータスを持ってすれば、多少の距離ならば危なげなく跳躍で移動することが出来る。
「貴殿は一体？」
「話は後だ。連続で跳ぶ、舌を噛むなよ」
「逃がすな！ 追えー！」
グラムは飛び石のように屋根から屋根への移動を繰り返し、瞬く間に処刑台の設置された広場から離脱。呆気に取られていたカイザル髭の騎士が慌てて追撃を命じるも時すでに遅し。グラムの背中を捉えることは叶わなかった。
グラムは過去二回とはまた赴きの異なる、特殊な場所へワープしていた。降り立った場所はどうやら、どこかの村の広場に設けられた処刑台の上らしい。
どうしてここが処刑台だと分かったかというと、後ろ手に手枷を、足に重い鉄球をはめられた、亜麻色の髪をハーフアップにまとめた女騎士と、その右隣に立つ、首を刎ねる処刑用の大斧を携えた男の姿を確認したからだ。処刑人と思われる黒衣の男は、突然の闖入者の存在に、処刑人らしからぬ表情で呆気に取られている。
なかなか衝撃的な現場であるが故に、レンカの時と異なり状況の把握は容易だ。助けを求めたのは罪人として処刑されそうになっている目の前の女騎士。彼女に迫る危機は大斧による処刑と見て間違いないだろう。
「何だ貴様は！」
「助けを求めたのは君か？」
処刑人から荒々しい、それでいて真っ当な疑問が飛び出すが、グラムはそれを無視して目の前の女騎士へと問いかける。女騎士も当初は驚愕に目を見開いていたが、核心をついたグラムの発言に希望を見出し、その瞳に再起の意志を取り戻す。
「確かに私は天に助命を求めた。貴殿はその願いに応えてくれるというのか？」
「今は全力でその願いに応えよう。事情は後で聞く」
状況だけで判断するなら、処刑されようとしている彼女を善と捉えるのは早計かもしれない。しかし、この場所へワープしてきた瞬間から、グラムは様々な違和感を抱いていた。
処刑台周辺には一般市民の姿はない。住居にも生活感が無いので、この場所は恐らく廃村であろう。
処刑台を囲むのは騎士風の屈強な男達ばかり。注目すべきはその表情だ。何らかの背反行為を働いた同僚に対する厳罰としての処刑の場にしては、ほとんどの者が品の無い下卑た笑みばかり浮かべている。また、騎士に混じって一部、堅気とは思えない、ならず者らしき男達の姿も目立つ。
正当な処刑だというのならば余所者が口出しすべきではないだろうが、状況から察するにこの処刑には、何やら陰謀渦巻く気配が感じられた。
「何者かは知らぬが、その女を助けようとするならば貴様もまた同罪。今この場で処刑する」
リーダー格らしき、カイザル髭が印象的な中年の騎士の決定を受け、処刑人がグラムに狙いを定めて大斧を振り被る。拘束されたままの女騎士よりも、邪魔者のグラムを先に始末すべきと判断したようだ。
「脳天をかち割ってくれる！」
大斧が振り下ろされるよりも早く、グラムは瞬間的に、右手に握る長ネギを振り抜いた。
処刑台は狭く、回避すれば女性騎士に被害が及ぶ可能性がある。食べ物を粗末にするのは気が引けるが、武器として利用出来そうな物が他に無いので今は仕方がない。
「がっ――」
グラムの振るった長ネギが処刑人の腹部へと直撃。ネギの接触自体は大したダメージではないが、グラムの膂力により発生した衝撃が、長ネギを介して処刑人の体を貫いた。「手加減」スキルを使用しているため命までは奪っていないが、処刑人は一撃で気絶。斧を手にしたまま、その場で膝を折って倒れ込んだ。
「女の救出に来ただけあってなかなかやる。全員で取り囲め！」
カイザル髭の騎士の指示の下、十数名の騎士やならず者たちが処刑台周辺を取り囲む。逃げ道を塞いだうえで、次から次へと騎士達が処刑台を上って来るが、
――事情を把握しないまま、これ以上暴れるのは遠慮しておくか。
今回の相手は盗賊や野生の魔物ではなく、騎士という社会的地位を有した者達。事情を把握しないまま、考え無しに暴れるのは得策ではないだろう。処刑人をノックアウトした時点で大いに関わってしまっているが、グラムの身元が割れていない以上、誤魔化しは効くだろう。
「拘束を解くのはもう少し待ってくれ。今はこの場を離脱することを優先する」
「しかし、周辺を奴らに囲まれている。どうやって脱出するのだ？」
「こうする！」
「きゃっ！」
グラムが女騎士を軽々とお姫様抱っこの形で抱える。突然の出来事に、冷静な印象だった女騎士から可愛らしい悲鳴が上がった。
「しっかり掴まってろよ！」
女騎士の返答も聞かぬまま、グラムは勢いよく処刑台の上から跳躍。処刑台周辺を取り囲む騎士やならず者の頭上を高々と超え、十数メートルは離れた煉瓦造りの家屋の屋根へと飛び移ってしまった。レベル８５のグラムのステータスを持ってすれば、多少の距離ならば危なげなく跳躍で移動することが出来る。
「貴殿は一体？」
「話は後だ。連続で跳ぶ、舌を噛むなよ」
「逃がすな！ 追えー！」
グラムは飛び石のように屋根から屋根への移動を繰り返し、瞬く間に処刑台の設置された広場から離脱。呆気に取られていたカイザル髭の騎士が慌てて追撃を命じるも時すでに遅し。グラムの背中を捉えることは叶わなかった。
