馬車に揺られること30分。
2人は宿を探しに行ってるため、今は1人で歩いている。

リーアウドの中心部にあるこの街は昼夜問わず人で溢れてるらしい。 出店なども出店されており活気が溢れる。


「そこの兄ちゃん!ラビットの串焼き食っていかないかい? 」

突如横から声をかけられ振り向くと三十代くらいのガタイの良い男が居た。


「1本50Gゴールドだよ! 」

ふむ。確かに美味しそうだ。1本購入するとしよう。


「じゃあ1本頼む」

はいよ!とたった今焼きあがったばかりの串焼きを差し出してくる。 ポケットから50Gゴールドをだし手渡す。


「毎度あり!また来てくれな!兄ちゃん!! 」


随分と感じの良い人だったな。 串焼きを食べながらそんな事を考えていると。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ! 」


女の子の叫び声が聞こえた。

え、なになに!?

と、取り敢えず助けに向かわないと。 叫び声が聞こえた方向に走って向かう。

ガラの悪そうな男が3人、少女を囲んでいた。


「なぁなぁ頼むよ、お嬢ちゃん」

「い、嫌です……!離してください……!! 」

「へぇ?状況が分かってねぇみたいだな??ここは大通りから外れた裏路地だぜ?誰も通りゃしねぇよ」


少女が涙を流しながら訴えてるが、聞く耳を持つどころかギャハハと笑い出す男達。


「辞めて……なんでこんなことするのよ……」

「そんな簡易な変装でバレないと思っていたのか?王女さんよぉ……!!……大人しく付いてきやがれ!お前を連れてこいとある人に雇われたもんでなぁ」

「ぐへへ……少し味見してもバレねぇかなっ!! 」


ニタニタと顔を歪ませながら少女の身体をまさぐる。

そして、男達が少女の服を破り捨てようと手をかけようとした瞬間ーーー。


キィィィィィィィィィンンンン!!


僕は瞬時に詰め寄ると剣で相手を吹き飛ばす。


「ぐはっ……! 」

「ぐえぇぇぇぇ……!!! 」


ズサァァと 砂埃を立てながら数メートル先まで転がっていく。


「誰だてめぇ!! 」

「邪魔するとは……死にてぇのか? 」


……古典的な馬鹿か。


「お望み通りぶち殺してやるよ!!! 」


くっ……こいつら《身体強化》でも使ってるのか!? このままじゃ剣が……!

僕は意味不明なスキルを与えられたせいで戦闘向きのスキルどころか自身の強化すらも満足に使えない。

一見すると身体強化が施された大の大人3人と15歳の子供1人の戦い。

誰が見ても勝負は明らかだろう。 ……だけど僕は血反吐を吐くような鍛錬を積んてきた。

自、力、で、掴んだスキルもある。


「《初級付与魔法》剣に【ファイヤーボール】を付与」


シュボッ……と音を立てながら、剣の先端が炎で包まれる。 自力で掴んだスキル……といっても誰でも使えるような魔法だが。

【ファイヤーボール】なんて赤子でも使える。


「ブヒャヒャヒャヒャ!!おいおい何をしてくるのかと思えば初級魔法の中でも下の下【ファイヤーボール】じゃねぇ…… 」

「ガキは家に帰ってねんねし……」

声が掠れていき男達は、言葉を最後まで言う前に倒れてぴくりともしなくなる。 実は今のは見掛け倒しである。

《付与魔法》で気を引いてるうちに別の【ファイヤーボール】で周りの酸素を燃やし呼吸出来なさせ……というオリジナル魔法だ。

赤子でも使える初級魔法は応用を聞かせれば即死魔法にすらなりゆるなんて誰も分からないだろう。

……僕の威力じゃ気絶させるくらいが精一杯だけど。 周りに人が居なかったから使えた魔法だ。

広められたら悪用する人も出てきてしまうかもしれないからね。 僕は後ろで守っていた少女に向き直る。

そしてある違和感が頭の中を襲う。 目の前にいる少女は普通の市民に見える……いや、そう思わせている。

しかし《鑑定》スキルなんぞ持っていない。この違和感を確かめる方法は無い。 じーっと顔を見つめてみる。

近くで改めて見ると可愛いな……。

背中までさらりと伸びた銀髪、甘くていい匂いが鼻腔をくすぐる。胸もでかい。 ……っていかんいかん。

大丈夫か聞かないと。


「あ、あの大丈夫でしたか? 」

「大丈夫です……」

「怪我とかしてない?もししてたら師匠に治してもらうけど」


こういう時本当は僕が回復ヒールするのが普通なんだろうけど……回復魔法使えないからな。 師匠に頼むしかない。


「凄い……わたしの運命の人……」

「え?」

なんか運命の人って聞こえた気がするけど……気のせいだよな?


「あ、いやなんでもないです!?!?そ、その助けてくださりありがとうございます! 」


うん、気のせいだったみたいだね。

「あ、ユナ=ルーラウドって言います……気軽にユナって呼んでください! 」

「ユリア=グリアン……いや、ユリアだ」

もう僕はグリアント家の人間じゃないから家名を名乗る事は許されない。 家の人間では無い人が家名を名乗るのは重罪で奴隷堕ちとなる。 誰であったとしても……。

それはどうでもいいけどユナって何処かで聞いた事あるような名前だな。

しかし記憶を引っ張っても思い出すことは出来なかった。


「そうなんだ!よろしくね!ユリアさん!! 」

パァァと笑顔になり、手を握ってくるユナ。


「んぐ!? 」


さっきから理性がおかしい。今も変な声が出てしまったし。

「どうしたの? 」

ほらみろ……。疑われてるじゃないか。


「あ、あいつらを縛っておかないと!! 」

このままじゃ本当にまずい。僕が僕じゃなくなってしまう!! まだ握っていたいと思う気持ちを抑え、男達に逃げられないようにする。

1人、2人……。 あれ?3人居なかったっけ?気のせい……


「ユリア君後ろっ!!! 」


ユナの叫び声と共に剣が振り下ろされーーー


「グハァッ」


ることは無く、逆に男が吹き飛んだ。
一撃で気絶したのかピクリとも動かなくなる。


『所有者に命の危険が迫った為、自動的に《絶対防御》、《反転魔術》を【スキルの書】から習得し発動しました』

脳に直接声が響きスキル習得を伝える。 無機質だがどこか女性のような声だ。 そして……


ピロン♪ピロン♪ピロン♪ピロン♪ピロン♪ピロン♪ピロン♪ピロン♪ピロン♪ピロン♪ピロン♪ピロン♪ピロン♪ピロン♪ピロン♪ピロン♪ピロン♪ピロン♪ピロン♪ピロン♪ピロン♪ピロン♪ピロン♪ピロン♪ピロン♪ピロン♪ピロン♪ピロン♪


…… 唐突にレベルアップを告げる音が脳内に鳴り響く。 脳が焼かれるような痛みが発生し、胃から何かが込み上げてくる。

やばい……死にそ……。

耐えきれなくなり意識を手放した。

「ちょ、ユリア君!?大丈夫?!?! 」


『《クリエイティブモード》を《簡易版》から《完全版》にアップグレードします。所有者の肉体に合わせながらアップグレードします。 ……【スキルの書】のインストール……成功しました。 ……【異?界テ�繧ケ繧ュ繝ォスキル】のインストール……失敗しました 。……強制的にインストールします。……縺溘�繧�∪縺輔o縺溘d縺ッ縺。縺ッ繧�◆繧��縺ー繧��繧峨∪繧峨■繧上↑縺溘o? ……成功しました。』






「え?今転生者の《スキル(気配)》がした!? 」


彼女は急いでスマートフォンを取り出し何かをタップする。

「やっぱり!場所は……リーアウド国……い、今すぐ向かわなきゃ!! 」

リーアウドからは少し離れた場所に位置するマスルンガ国に住んでいる彼女はユリアに会いに行くためにろくに仕立てもせずに飛び出していく。

余程慌てたのだろう……転生者専用スキル《転移魔法》を使えるのにも関わらず徒歩で……。

そんなちょっと抜けてる彼女がユリア達と出会うのは少し後のお話。


「ちょっと、誰が抜けてるって!? 」