物陰に隠れて中の様子を伺っている。

「その嬢ちゃんが何処にいるか分からねぇから、下手に動けねぇな……正面切って中にカチコミしに行っても、直ぐに捕まっちまうだろうな」

親指の爪をかじりながら正面を見据えて呟いた。

「外の警備だけで三人居ますもんね」

奴隷商人の住処に入り込むためには、見張りの門番達との戦闘は避けられない。

こちらは四人だから人数的には有利だが、戦闘音で中にいる仲間達も気づき、加勢してくるだろう。

「話し合いで返してくれるような人では無いんですよね? さっきマトモではあるって言ってましたし、それで解決出来ないですかね」

穏便に済ませれるならそれが1番なんだけど……。

そんな願い虚しく、スキンヘッドさんは首を横に振った。

「クズばっかの奴隷商人の中ではまともな部類って話だ。まずなんの罪もない嬢ちゃんを拉致って奴隷にしようとしてるって時点でマトモじゃねぇと俺達は思うんだがな」

う、た、確かにそうだ。
やはり戦闘は避けられないようだ。

腕を組んで考える。
誰にも気づかれずに住処に入り込むことが最初の一手だ。
だが音を出したり、戦闘が始まると援軍を直ぐに呼ばれる可能性が高い。

と、なると一撃で門番を無力化しないといけない訳だ。

音が出ないような魔法なんてあるかな?

どんな魔法であれ少量の音はするはず。
相手が奴隷商人の下っ端であることを考えると、僅かな異変でも直ぐにボス、大元に知らせに行くかもしれない。

しかも音の小さい魔法は威力も小さいのばかりだ。

ん?待てよ。

音を遮断する魔法とかってないのかな。

僕はこの世に存在する全てのスキルや魔法が使えちゃうわけだし。

一つくらいそんな魔法があってもおかしくないだろう。

メニューを開いて、スワイプして探していくとピッタシな魔法を見つけた。

サイレントという魔法だ。
効果は名前の通り指定した空間の一切の音が出なくなるというもの。

そして更にうってつけなのも見つけてしまった。

「あの、いい魔法を見つけたんでここは僕にまかせてください」

「お、おう? 大丈夫なのか? 」

「はい。この状況にうってつけの魔法を見つけたので」

「見つけた? 何を言ってーーー」

こくりと頷いてから、隠れている茂みから顔を出し、

「《サイレント》」

まずはこの辺り一帯にサイレントを発動させた。
薄く白い結界のようなモノが辺りを覆っている。

これがサイレントの効果範囲内の印と見ていいだろう。

「(ぱくぱくぱく)」

「(ぱくぱく)」

あれ? なんだか様子がおかしい。
見張りの人たちがサイレントの結界に気づいたのか指さしている。
それは別にいいのだが、かなり口を大きく広げて何かを仲間たちに訴えているにも関わらず何も聞こえない。
本人たちもびっくりしている。

この様子、そして隣にいるスキンヘッドさんたちを見るに、この《サイレント》は対象の空間の物音だけでなく、全ての音が無くなってしまうらしい。

いや確かに声は聞こえる、とかは書いてないけどさ。
これは流石に不便すぎないだろうか。

スキンヘッドさんたちが口の動きで何かを表現している。
恐らく「これがその魔法なのか? 」と聞いているのだろう。

はい、と頷いて、向き直る。

早くしないとこの異変を知らせに行かれてしまう。

幸いこの奇妙な状況に驚いたままだったので、そこを狙って《昏倒》を発動させてもらい、三人とも音もなく倒れた。

凄い便利な魔法だ。
これからも重宝するかもしれないな。

相手を傷つけることなく無力化出来るから、戦闘沙汰にしたくない時に使える。

「これで中への侵入は簡単になりましたよーーーって、そうか」

まだサイレントを解除してなかった。
ぽちっとな。

「すげぇな坊主! こんな魔法見たことも聞いたこともねぇよ! 」

「ガキだと舐めてたが実力はあったみたいだな」

「ボクくん強かったのね〜お姉さんが守るだなんて言っちゃったけどアタシの方が守ってもらう側だったわね。アタシ、ショタが大好きなのだけど、強い人はもっと好きだわ〜」

赤い髪のお姉さん、目がハートの形になってる。
鈍感な僕でも分かる、これガチのやつだ。

「ええと、好意は嬉しいんですけど、今はヒナの救出を急ぎましょう。《昏倒》は便利ですが効果時間がそこまで長くないみたいなので」

茂みから出て、倒れてる見張りに近づき、メニューのアイテム欄から縄を出して手足を縛っておいた。ついでに口元も覆っておく。

これで昏倒が解けて目が覚めても助けを呼びに行くことは出来ないだろう。

ぐるりと一周すると、良い感じの窓を見つけた。
窓は開きっぱなしにされており、外からそっと覗いて見たが中には誰も居ない。

「ここから中に潜入しましょう」

いよいよ奴隷商人の住処に潜入だ!
絶対にヒナを助けるぞ!!