順番が回ってきてやっと僕の番になった。

さて、今まで観察してきた中で分かったこと、それは的に命中させれる受験生が今の今まで居なかったことだ。

大きめのファイヤーボールをよろよろと遅いスピートで放ち、的の端の部分をかすっただけで凄いとザワついたくらいだから余程だろう。

パプルと師匠は首を傾げていた。

「サツキよ、ここは世界最高峰の学園じゃなかったのか? 妾が見るにこのままじゃと妾達以外全員落ちるのが妥当な判断だと思うのじゃが」

「パプルさんそれ私も思ってました。昔と今じゃかなり魔法の技術は衰えているとはいえこれは流石に……」

こうは言ってるものの2人の正体は最強のバハムートと最強の賢者の生まれ変わりだからな。

最強の2人からすれば目の前の光景は茶番以下なのかもしれない。

そんなふたりを失望させないためにも、的のど真ん中に魔法を命中させてやる。

息を整えて、深呼吸をする。
1歩踏み出して白線の手前に立った。

《クリエイティブモード》を使用し、【スキルの書】を開く。

膨大な量のスキルの中から最適なスキルを選択する。

《確定命中》、そして《威力増強》のバフスキルを使用。

これでどんな魔法でも命中させれるだろう、多分。

使ったことがないスキルだから多分止まりだが、《空間転移》をバッチリ使えたのを見るにこの《クリエイティブモード》は文字通り全てのスキル・魔法を使えるのだろう。
それを今回も信じる。


「火魔法」

魔法の名を口に出して手のひらを向けると、ごおおお…!! と音を立てながら的に向かって放たれた。

そして命中し、的が壊れた。

あれ? レリカ先生、あの的は絶対壊れないって豪語してたような……


「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!? 」

「まぁ、こうなると思ったのじゃ。オリハルコン如きがダーリンの魔法を防げるはずがないじゃろて」

「ふふん! 弟子くんはやっぱ最強だね。オリハルコンを破壊するなんて流石」

「ユリア様流石です! 」

「す、すごぉ……」


口々に言う。
他の受験生達もあんぐりと口をひろげて、木っ端微塵になったオリハルコンの的を見つめている。

「あのーレリカ先生、壊しちゃった場合ってどうなるんですか? 失格になったりするんですかね? 」

それにだ、

「オリハルコンってかなり貴重でものすごく高いんですよね。弁償しないといけないですかね」

もしそうとなればウン千万ゴールドは下らないだろう。
学院生活どころか借金生活になってしまう。

明けても暮れても働きに出て、返済し終えるのはいつになることやら。

そんなことになってしまったら居場所を捨ててまで付いてきてくれた師匠のサツキとメイドのミユ、嫁になったパプル(まだ僕は認めてないけど)、隣の国リーアウドの第三王女のユナ、僕を信用して娘であるユナを預けてくれたミミス国王、友達のアリスに合わす顔が無い。


「あ、いや……弁償は、うん、と、とりあえず、上に掛け合ってみますー! オリハルコンを壊す魔法なんて聞いたこともないよ〜」

レリカ先生がそう言い残して立ち去って行った。

程なくして一人の背が高く眼鏡をかけた男性を連れて戻ってきた。

「これはみごとに壊れてますね。神の鉄オリハルコンをここまで細かく破壊できるなんてにわかに信じ難いですが、現に壊れてますからね。とりあえず危ないので破片等を撤去して、他の的を使い試験を続けましょう。1つレーンが少なくなるので時間はかかりますが……やむを得ないです。にしてもこんなひよわな奴が大層な魔法を放てのですか? どうもそうはみえないのですけどね」

ずかずかと出てきたかと思えば嫌味ったらしくそう言い、品定めをするかのような目でじろりと睨んできた。

「レリカ先生の驚きぶり、この場の雰囲気、そして他受験生の目、なによりこの破片が証拠ですし本当に貴方なんですね。合格かどうかは分かりませんが、楽しみですね。それと弁償はしなくていいからね」

かと思えば一転して褒めてきた。

「せっかくなので少し見ていくとします」

「ありがとうございます。ところで貴方は誰なんですか? 」

弁償を取り消してくれた位だから学校の役職の中でもかなりの権力者なのは間違いないだろう。

「この学院の副校長ですね。リマートゥル・ノミキタン。リマートゥルだけでも覚えて欲しいですね。お話はこのくらいにして、時間も迫ってるので早々と試験を再開しましょう」

驚いた、まさか副校長だったとは。

さて、副校長が突如として試験を観察することになり、今から試験を控えている受験生達は焦り緊張している。

当然だろう、前の人まではレリカ先生だけだったのに、自分達からは副校長、言わば合否を主観だけで決めれるだけの権力のある人物が見守っているのだ。

誰が最初に行くかと怖気付いているのをよそ目にパプルが白線へと向かう。

「何故あやつらは怖気付いておるのか? ここでどかんと己の価値を示せれば合格にぐんと近くなるんじゃないのかて妾は思うのじゃ。せっかくダーリンの例があるのだからこの説はただしかろうて」

「で、でも緊張するっていうか、ねえ」

「そうだよな、失敗したら不合格になりそうだし」

「ていうかオリハルコンを壊したやべぇ奴の後にやっても全部掠れて見えんだろ」

パプルは自信満々だが、周りからはマイナスな意見ばかり。
それを無視して魔法を放った。

「ヘルフレア」

ずがあああああああああああ!!!!


僕が放った魔法より遥かに大きな炎が地面をえぐり、土埃を巻き立てながら的へと直撃し、砕け落ちる。
その破片すらも地獄の炎が包み込み、全てが消え去った。

的そのものが焦げ落ち、そこにあったはずの的は無くなっている。
ぼつぼつ、と焦げた地面。

「やらかしたのじゃ、ダーリンに負けんようにちとほんの少しだけ魔力を多めに込めてしまったのじゃー…」

「ひ、ひいぃぃ……またオリハルコンがああああああ、きゅー」

レリカ先生が目を回しながらぶっ倒れる。


副校長リマートゥル先生も額に流れた汗をハンカチで拭いながら苦笑いしているのだった。

もちろんこの場の全員驚いているのだが。

「パプルさんだしね! 」

「わ…パプル様なので当然といえば当然な結果ですね。ユリア様も凄かったですがパプル様も凄かったです〜! 」

「仲間でよかったと切実に思った瞬間だよほんとに。この後やる私達の事も少しは考えて欲しかったんだけど」


パプルの正体を知っている僕たちだけは、笑っているのだった。