自分の荷物をまとめるためひとまず家に帰り自分の部屋に入る。

父上から何かしら連絡が行ったのだろう、いつもであれば声をかけてくれるメイドも皆、失望や侮蔑を含んだ目で見てくるのみで誰一人として声をかけてくれない。

はは……何だったんだろうな僕の今までの努力は……。

領地に出向いて魔物を率先して倒したり人助けだって人一倍してきた。 あの場に居た人はほぼ全員と言っていいほど顔見知りだ。

いつも「ユリア様が居ればこの領地は安泰だな」とか「もし普通のスキルを与えられたとしても一生ついて行きますよ! 」とか言ってくれたのにな。

ハズレスキルだったら全てが否定されるのか?努力も人柄もこれまでの信頼も?? ふざけるなよ……。

なのに…… なのに…… ……

コンコン 。

不意に背後のドアからノックされ、反射的に身構えてしまう。

もう兄達が帰ってきたのか!?
どうせ早く出ていけとかハズレスキルのゴミだとかの罵詈雑言を浴びせられるのだろう。

「ユリア様?わ、私です!ミユです!あ、ああ開けてくだしゃい!! 」

痛い!噛んじゃった! と。

この子は変わってなかった。いつものドジにクスッと笑ってしまう。 ……仕方ない開けるか。

本当は開けるのは怖い。僕を追い出すために今までのような演技をしてるだけなんじゃないかって。

ミユもあの場の人間達や他のメイドの様に侮蔑の目で見てくるんじゃないか。

考えれば考えるほどドアを開けるのを辞めたくなる。 ミユは領地で酔っ払った冒険者達に殴られそうになっている所を助けたら、この恩は一生かけてでも払うと僕のメイドになってくれた子だ。

代々グリアント家は王国で教育を受けた最高級のメイドしか働く事を許されていない。

じゃあ何故ミユはウチで働けているのか?それは僕がめちゃくちゃお願いしたからだ。

なし崩し的に許可が出ただけで蓋を開けてみると父上にも、兄達にも、他のメイド達にも無視や嫌がらせを受けていた。

どうせ父上の命令だったのだろうが昔は尊敬していたから父上がそんな事をするはずがないと昔こそは思っていたが、今なら平気でやる人間だろうと確信できる。

はぁ……。当時の僕は、僕の事を第1に考えて行動してくれていたミユが嫌がらせを受けていた事になんで気づかなかったんだよ。

ぽつんと一滴の水が床に落ちる。

ダメ人間すぎるな……。 これまで頑張ってきたつもりなんだけどな……なんで遊んでばかりの兄達が報われて僕は報われないんだよ……。

ハハ……もういいよ……せめて来世では報われたい……。

ふと顔を上げると剣の鞘が目に入り、衝動的に両手で握る。

これは昔師匠と街に行った時に領主様には内緒だよと買ってくれた思い出深い物である。

それからというもの父の目を盗んで剣の修行と魔術の修行を両立させて力をつけていった。

それでも1度も師匠に勝てた事は無い。

……本当に師匠は何者なんだ。

師匠……こんな弟子でごめん……。 鞘を抜いて首に当て、最後に魔力を込めてそう発する。

《念力》……魔力を少量込めると、届けたい相手に伝えたい言葉がリアルタイムで届く魔術である。
国同士の戦争から子供の遊びの約束まで幅広く使われる【生活魔術】。

スキルを与えられる前ーーーすなわち生まれた時からステータスボードは存在し、個人差はあるが言葉を流暢に喋れるようになる5歳くらいから【生活魔術】は使えるようになる。

僕は周りより1年早く4歳の頃に使えるようになり、父は「ワシの修行のおかげだな!! 」と言っていたが間違っている。

師匠がバフで【成長速度100倍】をかけてくれてたからなのだが真実を知るのは僕と師匠のみ。

右手で剣を持ち首に近づける。

思い切って振りかぶり、刃が首を跳ねる刹那ーーー


「やめてえぇぇぇぇ!!!!!! 」


パリィィィィィィィィンンンンン!!!!!!!!!!!!


突如部屋の窓が粉々に割れ、僕が持っていた剣は吹き飛び、ドアにゴンッ!!!と鈍い音を立てて突き刺さる。

そしてーーー


「バカ……本当に死んじゃうかと思っちゃったじゃん……! 」


と。

えーーー えーー えー ええええええええええええええ!? 師匠!!?いつの間に来た!?というか僕の剣何処行った!?首飛んでない!?窓粉々になってる!?


「ユリア様どうされました!?轟音がなりましたけど!!? 」


ドゴオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォンンン!!!!!


背後からも爆音が鳴りドアの破片と思われるものが降り注ぐ。 そして前からも後ろからも思い切り抱きつかれる。 ……なんでこうなった!?

それからなんやかんやあり。


「そっか……辛かったね……あんなに頑張ってたのに……」

「し、師匠おおおおおお!!……」


目頭が熱くなり涙が溢れ出す。


「私はいつでも弟子君の味方だよ、だからいっぱい甘えて良いし愚痴も沢山言っていい、嫌な事があれば逃げても良い」


だけどね、と付け足し


「死んじゃうのだけはやめてよ……! 」


そういうと師匠はまた泣き出してしまう。 どうしよう……。ひとまず心配させてしまったことを謝る。


「もう二度とそんな事しないで……」

「う、うん」

「割り込むようで申し訳ありませんユリア様、ところでなんでこんな事をしようと思ったのですか?…… 」


メイドのミユが不思議そうに話しかけてくる。 え?父上から連絡行ってないのか?

……となると僕の口から言わないといけないのか。


「そ、その2人とも……今日【スキルの儀】があったことは知ってるよな? 」

「うん、一緒に行きたかったのに……あいつのせいで!絶対に許さないんだから」

「知っておりますが……それがどうされたのですか? 」

「それで授かったスキルが《クリエイティブモード》ってスキルで【全スキル一覧】に載ってないからハズレスキル扱いされて……その場で発動させてみたけど……出てきたのは木の剣1本で……う、うぅ……」


そこまで言うと僕は何かが内からこみ上げて泣き出してしまう。


「師匠……本当にごめんなさい……」

「なんで謝るの?辛いのは弟子君なのに……ってか今スキル名何て言った? 」

「え、これまで自分の時間を割いてまで見ず知らずの僕の修行をつけてくださったのにこんな結果になってしまって……」


そう、師匠はグリアント家が雇っている訳でも古くからの付き合いがあるとかでも無い。


「それは私が勝手にしだした事だし全然大丈夫だよ……あとスキルの名前もう一度言ってくれない? 」

「く、クリエイティブモードってスキルだけど」


スキル名なんか聞いてどうするんだろう?【全スキル一覧】に載っていない……言わば《外れスキル》であり希望すらも無い。


「!……やっぱり……いや、まさかそんな……日本からの転生者じゃない限り世界の枠を超えたスキルは手に入らないし……」

ボソボソと何かを呟きながら悩みだす師匠。このスキルについて何か知ってるのだろうか?


「弟子君。ちょっとスキル発動して貰っても良いかな? 」


スキルを発動させる。半透明のウィンドウが目の前に現れる。


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《β版》 ・【←木の剣→】 ・【←木箱→】 ・【←ミニポーション→】

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スキルの儀で使った時と同じ内容で変わった所は一つもない。


「やっぱり!そこの矢印の」

「まだ居たのか!!さっさと出て行かんかァァァァァァ! 」


師匠が何かを発す瞬間、思わず耳を塞ぎたくなるような怒声が聞こえ振り返る。

僕に追放を言い渡した本人であり父親であるーーーモートンだ。その隣には兄達も揃いニヤニヤしている。

相変わらず気持ち悪いニヤつき具合だ。


「そうだ外れスキル持ちで哀れにも実家を追放される無能に、俺の授かったスキルを土産に教えてやるよ。俺のスキルはーー《究極・魔法剣士》だ」


究極・魔法剣士!? 魔法分野は《賢者》を凌ぐ程の威力で、剣士分野は《剣聖》に引けを取らない。

1人で上級パーティー2人分の活躍出来ると言われているスキル。 恐らく望むのであれば王国の最上級魔法学院に推薦入学できるだろう。


「ふん。ようやく身の程が分かったか。跡継ぎはこの2人に任せようと思う」

「だからといって今まで頑張ってきたユリア様を追放だなんて……あんまりです!! 」

「ああ。確かに努力をしてきたかもしれないな。……だが由緒正しきグリアント家から《外れスキル》持ちが現れたとなると王からの信用を損ないかねない、だから追放する。我が家唯一の`汚点´であり『無能』のユリアをな」


父ーーモートンがそこまで言った瞬間空気が震え、その首には剣がツッと突きつけられる。

師匠が『アイテムボックス』から剣を取り出し首に突きつけたのだ。

この間0.1秒。


「次、弟子君の事を汚点だったり『無能』とか言ったら殺します」


無意識なんだろうけど殺気がこの部屋を満たし、スキルで耐性が有るであろう兄達すらも後ずさる。


「き、ききききき貴様、ワシに楯突こうと言うのか!?誰のお陰で飯が食えてると思ってんだ!!!貴様も追放することだって出来るんだぞ!! 」


ビビり散らかしながらも脅してくる父モートン。楯突くならお前も追放するぞと反論をしてくる。それで怯むと思っていたのだろう。

ーーーだが最愛の弟子をここまで馬鹿にし追放した家に残るはずがなく。


「はい、それで結構です。本日までお世話になりました。」

「わ、私もユリア様についていきたいので今日で辞めさせて頂きます! 」


そういうと胸ポケットから1枚の白い封筒をモートンに差し出しお辞儀をする。 ……辞表だろう。まさか前から書いてたのだろうか? それはおいおい聞くとして。


「ええい!もう貴様らは知らん!!さっさと出て行けぇ!!! 」




こうして3人揃って追放されたユリア、ミユ、アリサなのであった。

モートンは3人を追放したことを後々後悔することになるのだが今は誰もその事を知る由もない。邪魔な奴らが減ったとモートン達は大喜びしてるのであった。