あのサツキの件の後、誰も目線を合わせてくれなかったんだけどどうしてだろう。

ああいうとき追いかけるのが普通なのだろうか。

突然の出来事すぎて呆然としてしまったのだ。
小さい頃から師匠と呼び続けていて、師匠も僕を弟子君と呼んでいた。

ずっと慕っていた人が自分を師ではなく女性として見てほしい、だなんて急に告げてきたらそりゃ動揺するだろう。

それを了承したら師弟関係は終わってしまうのだろう。

僕はこれからも師匠に魔法を教えてもらいたい。

けれども傷つけるような真似はしたくないし、勇気をだして打ち明けてくれたのにそれを無下にもしたくない。

誰かに相談してみようにも、する人が居ない。

なんか皆「へぇー」って感じの顔をしてるし。



「全員集まったみたいだね、よしっじゃあ実技試験始めるよ〜」

みょうにちっこい女性が話し出す。

「ぼくはレリカ。ここの学院の教師をやってるよ〜! といっても今はどの担任ももってないから、もしかしたら君らの中で合格した子の担任になるかもしれないね〜」

ぶかぶかのパーカーからちょびっと手を出す、いわゆる萌え袖で手をひらひらとした。

ちっこいのが出てきたからか呆気に取られている受験生達。

「よろしくお願いします、レリカ先生」

「うむ! よろしくね〜! それと君! まっさきに反応してくれたお礼としてこの僕をレリカちゃんと呼ぶことを許可しよう」

いや、流石にそれはどうだろう。
仮にもこれから入学することになるであろう学院の教師にちゃん付けで呼ぶのは如何なものか。

本人が呼べと言ってるのだから呼んだ方がいいのかな。

うぅむ。
悩んでいるとレリカ先生がてんてんと歩いてきた。

「やだ? 」

「別にそういう訳では……」

「じゃあ決定ね! 君は? 」

「僕はユリアです」

「改めてよろしくね、ユリア」

「はい、よろしくお願いします。レリカ……先生」


悩んだ末に今はまだ先生と呼ぶことにする。

壇上に戻る前に明らかに悲しげな顔をされたが許して欲しい。

「こほん、少し話を中断してしまったね。今から皆に実技試験の説明をするよ! ちゃんと聞いてね〜」

レリカ先生が試験内容を話し出す。

まとめると実技試験の内容はこうだ。
自分が使える魔法をここから少し遠くに設置されている的に当てるといったもの。

いわゆる的当てだ。

「足元に敷かれている白い線より後ろから魔法を打ってね。線より前から打ったらアウト、失格になっちゃうよ。ざっくりこんな感じだね! なにか質問はあるかな」

パプルが手を上げる。

「ユリアの隣のすげー美人なその子どうぞ! いや、まじで美人やなー! 」

萌え袖を口元に添えて美人、と連呼するレリカ先生に僕達は苦笑する。

確かにパプルは美人だけどそこまで興奮するか普通。


「ふむレリカちゃんとやらよ、魔法ならなんでもいいのかえ? 例えば《空間転移》で的に近づいて近接魔法で木っ端微塵にするとか。まぁ、この程の距離であればわざわざ近づく必要なんてないんじゃがな」

「《空間転移》? 空間転移ってあの喪失魔法の!? 君面白い事言うね〜使えるのなら是非見てみたいけど高等な魔法だしこの魔法は言わば伝説そのもの。現代ではおろか古代でも扱える人はほぼ居なかったからね。そこら辺の想定はしてないからなー。けど、この試験は魔法の威力・精度・正確性を見極める試験だから近づくのは無しかな! 」

「妾と、主でありダーリンであるこのユリアは使えるのじゃが、無しというなら仕方ないのぅ。そこの白線から放つ魔法だったらなんでもいいのじゃな? 」

「そういうことだね〜」

レリカちゃんの答えに理解したと頷くパプル。
ふと思い出したのかさらに問う。

「あの的は一人一人魔法を打った後変えて、新たに設置するのじゃ? 」

「え? どういう事? 」

「壊れた的を使うわけじゃないのだろうし、どうするのかと思っての」

確かにそれは僕も思った。
魔術学院の入学を志した強者たちが集まっているこの場で、あんな的じゃ1発2発しか耐えられないのではないか。

「そういう事ね〜! その点は安心してくれていいよ。あの的はちょー頑丈で壊れないと有名なオリハルコンで作られてるからね。万が一にも壊れる心配はないよ〜」

「ふむ、そうかオリハルコンか……」

「なので安心安全だよ! よし、じゃあ他に質問は無いみたいだし早速はじめよー! 」

ぞろぞろと縦四列に並んでいく。
こうして実技試験が始まったのだった。