受付を済ませて、案内された教室の中に入る。
中には同じく受験生達が緊張した面持ちで座っていた。

僕達も各々空いてる席に座って、試験開始を待つ。

筆記試験と実技試験の二つ。

ここにくるまでの間、こんな会話が聞こえた。

「筆記試験はかなり難しいらしいな」

だとか、

「100点満点中50点取れればマシな方らしいぞ」

とか。

かなり難しいのだろう。

筆記試験がダメでも実技試験が良ければ合格出来るかもしれないらしい。

なんでも実技の方に重点を置いてるだとか。
なら筆記は要らないのではと思ってしまう。

そんなことを考えていると教師と思わしき女性が入ってくる。

「よし、全員揃っているな」

教室全体を見渡してそう言うと、手に持っていた紙の束を机の上でトントンと、してずれを揃える。

「問題用紙を前から渡す。受け取ったら後ろに回してくれ」

少し待っていると前の席の人が用紙を渡してくる。
お礼を言って、後ろの席に座っているパプルに手渡す。

因みにだが僕の隣はユナ、真後ろがパプルでその隣が師匠。
さらにその後ろがミユ。

人数の関係上ミユが一人になってしまうが仕方がない。

パプルに問題用紙を手渡す際にちらっと見えたが、隣に座った少女と笑顔で談笑していた。

「時間は50分だ。それでは始め」

全員に行き渡ったのを見計らい、時計を確認して試験開始の声がかけられた。

よし……頑張ろう…!!

気合を入れて1ページ目をめくったーーー


なんじゃこりゃ?

思わず素っ頓狂な声が出そうになるのを抑える。
テスト中に私語は厳禁だ。分かっている、それは分かっているのだがこれは流石にびっくりしてしまうだろう。
基礎中の基礎の問題だったからだ。

1問目だから肩慣らし的な問題なのだろうか。

しかし、幾ら解き進めても簡単な問題ばかりで開始数分で最終問題にたどり着いた。

最後の問題も特段難しくは無かったが、これまでの問題よりは一段難しかった。

あれだけゼウリアス魔法学院の試験は難しいと噂されていたから身構えていたがなんだか拍子抜けだ。

かなり早く終わったが、特にやることもないのでもう一度見直しをしてから眠った。



「おーいユリア君〜 試験終わったよ、起きて〜! 」

背中をとんとんとされて、目を覚ます。

ううん。やっと終わったのか。

「起こしてくれてありがとう」

礼を言ってから席をたち、校庭に向かった。

「難しかったな〜ユリア君はどうだった……って、開始数分で寝始めてたくらいだから余裕だったっぽいね」

「え、うん」

凄く簡単だった、そう言いかけて口を閉じる。
ユナは難しかったと肩を落としているのに余裕だっただなんて、人の気持ちを考えれない奴だと思われたくないからね。

「師匠が勉強を教えてくれたから、出来たんだよ」

「それは違うよ。弟子君の飲み込みが早いのと、勉強熱心だったからだよ。ひたむきなその姿が大好きになっちゃうくらいに、ね」

「師匠……そこまで思っててくれたんですね」

「当然だよ! まったく、この【元】世界最強の賢者と呼ばれたこの私が虜になって、知識、力、全部を教えちゃうくらいに弟子君の事を想ってるんだから。教えたこと全部その日のうちに飲み込んで、実践して。私でさえ難しかったヤツまで数週間、数ヶ月でできるようになっちゃって。だから弟子君の師匠になれて嬉しかった。これからも師匠で居たい、そう思ってたんだけど、最近を見てて変わっちゃったんだよね。何を言いたいかっていうとね……」

そこまでで言葉が止まる。迷っているのか頭をポリポリとかいて、視線が逸れた。だが、意を決したように僕の目を真っ直ぐと見ながら言った。

「弟子君……これからは師匠じゃなくて一人の女として見て欲しいな、なんて。……つつつ、ご、ごめん! やっぱ忘れてええええええええ!!!!!!!!! 」

顔を真っ赤に染めている。
だが言い切ると同時に恥ずかしさに耐えきれなくなったのか、教室を走って出ていってしまった。

猛スピードで駆けていく師匠の背中を見つめながら呟く。

「師匠ーーーいやサツキ」

なんで急にこんな事を言い出したのか、それはわからないが、【一人の女として】か……。

サツキへの返事を考えながら、校庭へと向かうのだった。