冬が去って春が近づいてきた二〇一一年の三月。朱莉と洋介の小学校では六年生の卒業式を間近に控え、学校全体がその準備で慌しかった。
「はあ、なんかめんどくさいな。来週の六年生の卒業式」
卒業式の練習が終わった昼休み、校庭のブランコに乗りながら洋介はため息をついた。彼の横にいるのは朱莉である。二人の周りでは、他の子どもたちが楽しそうに遊んでいた。
「仕方ないじゃない。ワタシたち六年生とはあんまり関わりなかったもん」
「だよねえ。六年生って遠い存在だよね」
「でも、だからといってめんどくさそうにしてると六年生に失礼じゃない」
「それはそうだけどさあ」
洋介はブランコを漕いだ。彼のブランコがゆらゆらと揺れる。それにつられて朱莉も漕ぎ始めた。二人のブランコは交互に前後する。
「……ボク、もしかしてさっきの練習で失礼なことしたかなあ」
「それはしてないと思うよ。洋介、練習中は真剣な目でステージ上の六年生を見てたじゃない」
「それは、朱莉からはそう見えてるだけだよ。本当はああ、早く終わらないかなってずっと念じてた」
「あはは、念じてたって何それ」
朱莉が大きく笑う。大きな笑い声は空の彼方まで響きそうな程だったが、それは周りの楽しげな叫びにかき消されていた。
「ちょっと、笑わないでよお」
「ごめんごめん」
二人のブランコの揺れがシンクロする。いつの間にか二人は漕ぎながらお互いのことを見ていた。
「ワタシたちもさ、あと五年したらあそこに立つんだよね」
「そうだね。五年ってあっという間なのかな、それともゆっくりなのかな」
「それは実際に五年経たないとわからないんじゃない」
「それはそうだ。ボクたちまだ七年しか生きてないからね」
「あはは!」
「なんでまた笑うのさ」
朱莉はブランコを漕ぐのを止めた。それに合わせて洋介も漕ぐのを止める。
「ワタシたち、五年後は十二歳じゃん。その時、ワタシたちどうなっているのかな?」
「わからないよね。もしかしたら朱莉ちゃんにはボーイフレンドができてるかもよ」
洋介がそう言った途端、朱莉は顔を真っ赤にした。
「はあ、なんでそんなこと言うの」
「あ、ごめん……」
「そういう洋介こそ、もしかしたらガールフレンドができてるかもね」
「そうかなあ……」
洋介も顔が赤くなる。どうしたらいいのかわからなくなって、二人は空を見上げた。空は晴れ渡っていて綺麗な青色だった。
「まあ、五年経たないとわからないけどね」
「そうね」
それからすぐに校舎のスピーカーから鐘の音が鳴った。休み時間が終わるという合図だ。周りの子どもたちは既に校舎の方へと戻り始めている。
「しまった! 午後の授業が始まっちゃう!」
「急がなきゃ!」
二人はブランコから立ち上がって、校舎まで駆け抜けた。それが二〇一一年三月十一日の昼のことである。
「はあ、なんかめんどくさいな。来週の六年生の卒業式」
卒業式の練習が終わった昼休み、校庭のブランコに乗りながら洋介はため息をついた。彼の横にいるのは朱莉である。二人の周りでは、他の子どもたちが楽しそうに遊んでいた。
「仕方ないじゃない。ワタシたち六年生とはあんまり関わりなかったもん」
「だよねえ。六年生って遠い存在だよね」
「でも、だからといってめんどくさそうにしてると六年生に失礼じゃない」
「それはそうだけどさあ」
洋介はブランコを漕いだ。彼のブランコがゆらゆらと揺れる。それにつられて朱莉も漕ぎ始めた。二人のブランコは交互に前後する。
「……ボク、もしかしてさっきの練習で失礼なことしたかなあ」
「それはしてないと思うよ。洋介、練習中は真剣な目でステージ上の六年生を見てたじゃない」
「それは、朱莉からはそう見えてるだけだよ。本当はああ、早く終わらないかなってずっと念じてた」
「あはは、念じてたって何それ」
朱莉が大きく笑う。大きな笑い声は空の彼方まで響きそうな程だったが、それは周りの楽しげな叫びにかき消されていた。
「ちょっと、笑わないでよお」
「ごめんごめん」
二人のブランコの揺れがシンクロする。いつの間にか二人は漕ぎながらお互いのことを見ていた。
「ワタシたちもさ、あと五年したらあそこに立つんだよね」
「そうだね。五年ってあっという間なのかな、それともゆっくりなのかな」
「それは実際に五年経たないとわからないんじゃない」
「それはそうだ。ボクたちまだ七年しか生きてないからね」
「あはは!」
「なんでまた笑うのさ」
朱莉はブランコを漕ぐのを止めた。それに合わせて洋介も漕ぐのを止める。
「ワタシたち、五年後は十二歳じゃん。その時、ワタシたちどうなっているのかな?」
「わからないよね。もしかしたら朱莉ちゃんにはボーイフレンドができてるかもよ」
洋介がそう言った途端、朱莉は顔を真っ赤にした。
「はあ、なんでそんなこと言うの」
「あ、ごめん……」
「そういう洋介こそ、もしかしたらガールフレンドができてるかもね」
「そうかなあ……」
洋介も顔が赤くなる。どうしたらいいのかわからなくなって、二人は空を見上げた。空は晴れ渡っていて綺麗な青色だった。
「まあ、五年経たないとわからないけどね」
「そうね」
それからすぐに校舎のスピーカーから鐘の音が鳴った。休み時間が終わるという合図だ。周りの子どもたちは既に校舎の方へと戻り始めている。
「しまった! 午後の授業が始まっちゃう!」
「急がなきゃ!」
二人はブランコから立ち上がって、校舎まで駆け抜けた。それが二〇一一年三月十一日の昼のことである。