冬特有の乾きがある、新年早々の昼下がり。晴れた空の下で、凧が風に乗って空に揚がっている。公園には大勢の子供たちが羽子板やコマ遊びを楽しんでいた。朱莉と洋介もその中にいた。二人は幼稚園の頃からの友達で、まだ小学校一年生だった。それが、二〇一一年のことである。
「ねえ、凧ってこんなに高く上がるんだね!」
 朱莉は天高くまで揚がった凧を見て、目を輝かせながら、凧糸を握り続けている。
「本当だ! 高い高い!」
 曇りの無い言葉で洋介は同じく空を見上げた。二人の目線の先には、凧がゆらゆら、ゆらゆらと揺れながら、空に佇んでいた。

「洋介、朱莉ちゃん! そろそろ帰るわよ!」
 洋介の母親が二人を呼んだ。
「はーい! 行こう、朱莉ちゃん!」
 洋介は朱莉の肩を叩いた。その時、朱莉は肩を叩かれてびっくりしてしまい、手に握っていた凧糸を離してしまった。
「ああ!」
 手から離れた凧は、そのまま風に乗ってどこかへとどんぶらこ、どんぶらこと流れて行ってしまった。
 朱莉はそれをただ見つめることしかできず、次第に目に涙を浮かべて泣き出してしまった。
「うわああ!」
 洋介もまた、それを見つめることしかできなかった。朱莉の甲高い声が公園中に響き渡る。それを見てもなお、彼は何もできなかった。でも、自らが彼女を泣かせてしまったことだけはわかっていて、彼は小学校一年生が持てる力を出し切って、謝り続けた。
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
 途中から、洋介までもが泣き出した。事にようやく気づいた洋介の母が駆けつけて、二人をなだめるのには、大変苦労した。

 後の事だが、朱莉はこの出来事を忘れることは決してなかった。風に流された凧が戻ってくることはなく、ただ、彼女の心に少しだけ穴ができた。その穴というのは、無視をするのは簡単だが、何個も、何個も穴が開くと、やがて大きな穴となっていくような、そういう類の物だった。
 朱莉が洋介のことを初めて恨んだ瞬間でもあった。
「洋介のバカ!」
 泣きながら彼女は、洋介の胸に飛び込んで、握った拳で彼の腹を叩いた。それと同時に幼い二人にはどうすることもできない、愛憎混じった感情が二人の中を駆け巡っていた。
「洋介のせいで凧を離しちゃったじゃん! こうなったらゼッコウよ!」
「イヤだ! ボクは朱莉ちゃんと離れたくない! 絶対に離すもんか!」
「じゃあ、ワタシのことずっと離さないって約束してくれる?」
「約束する!」
「絶対よ……」
「うん」
 この時、二人は指切りをして約束した。その約束はお互いに呪いをかけることと同義でもあった。だからこそ、この先で二人は離れられなくなってしまったのだ。それは、良いことでもなければ、悪いことでもない。ただ愛と憎しみが二人の間には存在していた。
「ごめんね!」
「許す! けど、許せないの!」
 二人は泣き合うことしかできなかった。