幼子精霊使いはほのぼのしたい!~スローライフを送るはずが、規格外ゆえ精霊たちに構われすぎてままならない~


 まぁそもそもリアがいきなりココナッツを出したりして、地形や気候を完全無視するから、それが凄いんだけどね。

 ひとまず、目的の枕を手に入れたので、ラヴィの本から一枚ページをもらい、夜に試してみる。

 翌朝になって枕の下に置いておいた紙を見てみると、綺麗な字で俺のスキルについて書かれていた。


『夏生さんのスキルは、魔法開発スキルです。新たに魔法を新たに作ったり、存在する魔法を変更したり、機能を追加したりできるスキルです』


 思いっきり日本語だし、ラヴィがこっそり書いたっていうのも不可能なので、やっぱり女神様が書いてくれたのだろう。

 魔法開発スキルか……ちょっとワクワクしてきてた。


 ◇◆◇


 俺のスキルが、魔法開発スキルだと判明して、数日。

「カイ先生―! 今日は中々の獲物やでー! ほら、めっちゃ大きいやろー! じゃあ、いつものように捌いとくなー!」

 そう言って、ラヴィが指さした大きな鳥を、腰に刺した短剣で、手際よくスパスパ捌いていく。

 少しすると、丁寧に血抜きされ、羽なども処理された、スーパーに売っているような鳥肉がラヴィの手に。

「ラヴィ、ありがとう。じゃあ俺は、明日の罠を作ってくるよ」

「あ、ちょっと待って! ウチも一緒に行く!」

 そう言って、ラヴィが切ったお肉を大きな葉に包み、かまどの近くにそれを置いて、俺のところへやって来た。

 ある程度リアから離れていれば何処でも良いので、適当な場所で足を止めると、魔法陣を作ることに。


≪もしも、鳥が上を通ったら、串刺しにする≫


 これが試行錯誤の上で作った魔法陣で、この上を鳥類が通過すると、メルの力が発動する。

 ここに行きつくまでろいろあって、メルに弓矢を作ってもらったものの、俺が不器用すぎて鳥に命中しないし、危ないからダメ! と、リアから怒られたりした。

 ディーネに水を弾のように飛ばしてもらうことを考え、周囲を水浸しにして、ノエルに目が笑っていない笑みを向けられたりもした。

 この魔法陣には自分でも怖いことを書いていると思うけど、いろんな失敗を経て、従来のラヴィの方法より簡単で、かつ獲物を確実に仕留めることが出来るようになったんだよね。

「お兄ちゃん。じゃあ、魔力をもらうねー! いっくよー!」

 その上、この魔法陣に協力してくれているメルがすごく乗り気で、もっと作って欲しいとねだってくるので、今ではすっかり鳥を確保するのは俺の担当となってしまった。

 精霊が普通に力を使うよりも、俺が魔法陣にした方が、同じ魔力の量でも強い効果になるというのは、以前にディーネから聞いているが、魔法陣にはもう一つメリットがあって、その精霊が使わないような力を発揮出来るらしい。

「メルたんが自分で鳥さんに攻撃するなら、鉄の塊をぶつけることになるからねー! こんな串みたいな形にして鳥さんを攻撃するなんて、メルたんでは無理だよー!」

 というわけで、普段やらないようなことが実現出来るのが楽しいらしい。

 ただメル曰く、この魔法陣は高さの有効範囲が広いので、その分魔力を多く消費するとかで、毎回魔法陣を作る度に抱きついてくる。

 そんなに魔力を消費するのであれば、無理に作る必要はないと思うのだが、毎食鳥肉を食べるわけでもないので、結果として毎日一回この魔法陣を作ることになっていた。

 実際、この魔法陣を作って翌日に見に来ると、鳥が串刺しになっていることが多いし、そうでなくとも、この近くで鳥笛を吹けば事足りるからね。

「今日は、この場所やね。オッケー、覚えたで。ところで、カイ先生。今日は何を作ってくれるん? チキンソテー? チキンソテーやんな?」

「ラヴィ。それは昨日食べたから、今日は違うのにしよう」

 ラヴィが何かを期待するように、目を輝かせて見つめてくる。

 というのも、先日作ったチキンソテーに始まり、焼き鳥、蒸し鳥、鳥ハム……と、知っている鳥料理に挑戦してみたところ、うっかりラヴィを餌付けしてしまい、鳥肉を使う場合は俺が料理することになってしまった。

 まぁ俺としても同じ料理ばかりより、いろんな料理を食べたいというのはある。

 というわけで、今日はリアに全面協力してもらい、新たな料理に挑戦することにした。


「カイ君。こんな感じで良いのかな? 小麦の実を粉にしたんだけど」

「さすがリアだね。完璧だよ! ありがとう!」

「えへへ。カイ君に褒められたー! けど、この小麦の粉を使ってどうするの?」

「ちょっと、いくつか作ってみたい物があってね。まぁ見ててよ」

 リアに小麦を生やしてもらい、これを粉に出来ないかと聞いたら、普通に出来てしまった。

 日本で売っている小麦粉みたいに真っ白ではなくて、ちょっと茶色掛かっているけれど、十分だと思う。

 次は、鳥肉を一口大に切って塩を振り、作ってもらった小麦粉をまぶす。

 オリーブオイルを多めにフライパンへ入れたら、かまどに乗せて、鳥肉を入れる。

 そう! 鳥肉料理の人気ナンバーワンと言っても過言ではない、からあげに挑戦してみた。

 本当は、もっと調味料を使って下味をつけるべきなんだろうけど、油と小麦粉だけでもかなりの進歩だからね。

「カイ先生。これは何をしてるん?」

「鶏肉を油で揚げているんだよ」

「揚げる? 焼くと煮る以外にも、そんな調理方法があるんや。でも、煮る……とだいたい同じなんかな?」

「煮るっていうのは、スープで煮込んだりする調理方法だよね? それとは全然違って、これは油だからもっと高温なんだ。水は百度で沸騰しちゃうけど、油の沸点はもっと高いから……」

「待って、待って。ちょっと何を言ってるかわからへんねけど」

「と、とりあえず、油で揚げると、水で煮るのと全然違う調理になるんだ」

 何度かフライパンを使った際に油を引いていて、その時はラヴィから何も言われなかったから、油のことは知っているみたいだけど、その油を使って揚げるっていうのは知らないのか。

 でも、油のことを鍋と食材がくっつかないようにするための物としか認識していなかったら、揚げるっていう調理方法には思い至らないのかな。

 そんなことを考えながらも、鳥のモモ肉がカラッと揚がったので、早速取り出す。

 少し冷ましている間に、予めリアに出してもらっておいたレモンをカットし、キャベツを千切りにして……出来上がりっ!

「ラヴィ、出来たよ」

「……何か、めっちゃ茶色いんやけど。カイ先生、これ焦げてるんとちゃう?」

「いいから、食べてみてよ。あ、レモンを絞って食べても美味しいよ」

 というわけで、まずは俺が一口……あぁぁ、からあげだぁぁぁっ!

 もちろん、下味が塩しかないので、日本で食べていたような唐揚げとは違うけど、この外がカリとた食感で、でも中はジューシーで……ひとまず、揚げ物としては十分成功な気がする。

「な、何やこれはっ!? めちゃくちゃ美味しい……カイ先生。ウチと結婚して! そして、毎日美味しいごはんを作って!」

「いや、飛躍し過ぎだから。とりあえず、色々と料理は作れそうだね」

 からあげが美味しいのはわかるけど、それで結婚っていうのはどうかと思うけど。

「お、お兄ちゃん!? 言葉はわからないけど、兎耳族の人が、お兄ちゃんに変なことを言わなかった!?」

「カイ君。私もメルちゃんと同じで、ラヴィさんの言葉はわからないけど、何か許しがたい話が出た気がするのよね」

「ふふっ、カイちゃんはママが守るわよっ!」

 ラヴィの言葉を聞いたメルとリアとノエルが、何を思ったのか、なぜか突然抱きついて来た。

 とりあえず、ラヴィは唐揚げの美味しさに感動しただけで、変な意味はないんだって。

 それよりリアが小麦粉を作ることが出来るとわかったので、パン……は作り方を知らないから、うどんっぽい麺とか、お好み焼きなら作れるかも。

 そんなことを考え、この異世界での食生活をさらに良くしていこうと、日本で時々行っていた自炊について思い出すことにした。

 小麦粉を作ってもらった後、数日掛けていろいろと試してみた結果、胡椒や砂糖っぽい調味料もリアが作り出せることがわかった。

 さすがに植物系の調味料でも、発酵させたりしないといけないからか、醤油や味噌をリアが作ることはできなかったけど、ノエルに地下の発酵室を作ってもらい、種麹を作ったりして、試行錯誤の末、醤油や味噌っぽいものに近付いた気はする。

 ただ、ちゃんとした醤油や味噌にするには、これを長期間発酵させないといけないけど、それでも大きな進歩だと思う。

 というわけで、今日は小麦粉と砂糖を使い、ドーナツを作ってみようと思ったんだけど、思わぬトラブルに見舞われる。

「あれ? ラヴィ。火が点かないよ?」

「あー、遂にこの時が来てもーたか。精霊石に込められていた力を使い切ってもーてん」

「あ! そういうこと!?」

 ラヴィとしては、一日に一回くらいしか使うことが無いと思っていたらしいんだけど、俺が作る料理が美味しいため、俺が一日三食使うのを止められなかったのだとか。

「そっか。ごめん……限りがあるのに、俺が調子に乗って使い過ぎちゃったんだね」

「いやいや、カイ先生は悪くないって。むしろ、ウチがご飯を作ってもらっていたわけやし。けど、どないしょー! もうカイ先生のご飯がやないと、ウチの喉を通らへんわぁぁぁっ!」

 まぁとりあえず鳥料理はなしかな。鳥肉を生で食べるのは怖いし。

 でも火が使えなくても、いつもリアが作ってくれているサラダは美味しいし、火を通さなくても食べられるけどね。

 最近は、塩と胡椒とオリーブオイルでドレッシングを作れるようになったから、元々野菜の旨味がしっかり感じられて美味しいリアの生野菜サラダが、さらに美味しくなったんだ。

 とはいえ、小麦粉や鳥肉っていう食材が手に入るようになった今、サラダだけの生活はちょっと辛いけど。

 ラヴィではないけど、喉を通らないというか、舌が肥えてしまったのかも。

「ディーネ。火の精霊石に込められていた力が無くなっちゃったらしいんだけど、どうすれば良いのかな?」

「んー、いちばんはやいのは、ひのせいれいをよぶことでち。だけど、カイがひのせいれいをよんだら、もうせいれいせきは、いらないとおもうでち」

 まぁそうだよね。ディーネの言う通りで、火の精霊を呼んで精霊石に力を込めてもらわなくても、火の精霊が呼べるなら、俺の魔力を使って火を点けてもらえば良いんだからさ。

 火の精霊を呼ぼうと思ったら、リアに乾いた木をもらって、一生懸命擦って、摩擦熱で火を起こすアレをやるのか。

 あ、でも、魔力で生み出した木から火を起こしても良いのかな?

 ラヴィの腕輪で出した火では、精霊を呼びだすことは出来ないっていう話だったけど。

 これについてディーネに聞いてみると、

「ざんねんながら、ダメでち。リアがやどっている、あのおおきなき……あれなら、だいじょうぶでち。でも、リアがだしたきでは、ムリでち」

 詳しく聞くと、リアが宿っている大きな木は、元々存在している自然の木で、そこにリアが宿っているわけだから、魔力で生み出したわけではない……というわけで、あの木を使って火を起こせば、火の精霊を呼べるそうだ。

 だけど、リアが魔力を使って生み出した木でも、ちょっとリアに申し訳ないのに、リアが宿っているあの木を少し折らせてくれなんて、絶対に言えないな。

「リアの木を使うのはなしかな。ディーネ、他の方法を知らない?」

「それがダメなら、そういうスキルをもっているひとに、たのむでち」

「あー、精霊石に精霊の力を込めることが出来るスキルがあるんだったね。そういえば、ラヴィもそんな感じのことを言っていたね。確か、祈祷師っていう人が、そういうことを出来るとか何とかって」

「ぐたいてきに、なにをするかはしらないでち。けど、ラヴィがそういっているのなら、きっとそうなんでち」

 ディーネもスキルで何をするかは知らないらしいけど、祈祷師っていう言葉からすると、精霊に力を込めてくれってお願いする感じなんだろうな。

「ラヴィ。この辺りに祈祷師っていう人は……って、何をしているの?」

「あー、必要な荷物を纏めててん。精霊石の力を使い切ってもーたから、ウチの村の村長に、力を込めてもらおーと思って」

「ラヴィの村の村長さんが、精霊石の力を回復出来るの?」

「せやで。今から出発すれば、まぁ明日には戻って来られると思うから、ちょっと待っててーや」

 ということは、ラヴィは半日くらい歩いて村へ戻り、また半日かけてここへ来るということか。

 ラヴィの分の食事も一緒に作っていたとはいえ、腕輪はほとんど俺が使っていたから、ラヴィにだけ任せるというのは、ちょっと申し訳ないな。

「ラヴィ。俺も行くよ」

「ホンマっ!? カイ先生が村に来てくれたら、きっとみんな喜ぶわー! けど、それなりに歩くけど、大丈夫なん?」

「うん。途中で休憩はするかもしれないけどね」

 よくよく考えると、俺は精霊たちを除けばラヴィとしか会ったことが無いし、この世界の村というのを見てみたい。

 まぁ人間の村や街と違って、兎耳族は穴を掘って暮らしているとは聞いているから、建物とかは無いんだろうけど、何かしら得られるものがあると思うんだよね。

「ディーネ。さっき話していた、精霊石に力を込めることが出来る人がいるらしいから、ちょっと行ってくるよ」

「まつでち。それなら、ディーネもいくでち」

「ありがとう。ディーネが一緒に来てくれるのは、とても心強いよ」

 半日くらい歩くわけだし、俺もラヴィも喉が渇いてしまうだろうしね。

「えぇー! お兄ちゃん。メルたんはー? メルたんには、一緒に来てって声を掛けてくれないのー?」

「も、勿論メルにも来てもらいたいよ」

「はーい! お兄ちゃんが行く所には、メルたんも一緒に行くんだからねー!」

 ディーネ、メルとくれば、当然ノエルにも声を掛ける。

「ノエル。少し出掛けるんだけど、一緒に行く?」

「カイちゃんが出掛けるのなら、ママも当然一緒に行くわよ。でも、何処へ行くの?」

「ラヴィの村だよ。ここから半日くらい歩いたところに、村があるんだって」

「この辺りの兎耳族の村……あ、あそこね。あそこなら、道に迷うこともないと思うし、大丈夫だと思うわ。とはいえ、ママもカイちゃんについて行くわね」

 あ、ノエルはラヴィの村の場所も知っているのか。

 まぁ土の精霊だもんね。兎耳族は地面に穴を掘って暮らしているのだから、知っているか。

 ただ、ディーネ、メル、ノエルが三人とも付いて来てくれると言うのだが、一つ気掛かりなことがある。

「リアはここから離れられないと思うんだけど、大丈夫かな?」

「リアさんなら、大丈夫だと思うけど……お兄ちゃんは、リアさんのことが心配?」

「うん。魔物だって現れるし、リアは逃げたりすることも出来ないと思うし」

「……むー。お兄ちゃんが、リアさんばっかり特別扱いするー。メルたんも大事にしてよー!」

「いや、リアを特別扱いっていうわけではないけど、もちろんメルも大切に想っているよ?」

「きゃー! お兄ちゃーん!」

 メルが嬉しそうに抱きついてきたけど、これをされると……うん。予想通りディーネも抱きついてくる。

 その様子を見たラヴィが怪訝な表情を浮かべているけど、メルたちのことが見えないって話だから、いきなり俺がよろけだしたって感じに見えているんだろうな。

 ひとまず、ディーネとメルには一旦離れてもらい、リアの所へ。

「リア。少しだけラヴィの――兎耳族の村へ行ってくるよ」

「えぇっ!? カイ君、それって何処にあるの!? 戻って来るまでに、どれくらい時間がかかるのかな!?」

「リアちゃん、大丈夫よ。兎耳族の村は、そこまで遠く無いわ。今から出発しても、今日中には戻って来られると思うの」

 あれ? ラヴィは片道で半日くらい掛かるって言っていたのに、ノエルが今日中に戻れるって言ってしまった。

 まだお昼前だし、おやつとしてドーナツ作りにチャレンジしようとしていたところだから、ものすごく急げば、帰って来られる……のか?

「えっと、ノエルさんもカイ君と一緒に行くの?」

「もちろん! カイちゃんのことは私に任せて。しっかり守るから」

 あぁぁ、ノエルがまたもや余計なことを言ってしまった。

 いつものリアの言動を考えると、そんなことを言うと必要以上に心配して、なかなか出発できなくなるってば!

「そっか……ノエルさんが一緒なら心配ないかな。……カイ君。くれぐれも怪我をせずに戻って来てね。あと……はい、これ。お腹が空いたら食べてね」

「え? あ、ありがとう。無理せずに、ノエルたちと一緒に戻って来るよ」

「うん! じゃあ、カイ君が戻って来るのを我慢して待ってるね! いってらっしゃい」

 リアにリンゴを二つもらい、ラヴィと共に兎耳族の村へ行くことになったのだが……どうしたんだろう。

 いつもなら、一緒に行きたいとか、危ないからってすごく過保護になったりするのに、今回はやけにすんなり行かせてくれるんだな。

 リアよりも年上に見えるノエルが一緒にいるからなのか?

「というわけで、リアちゃんにちゃんと断ったし、早速出発しましょうか」

「わーい! パパとおでかけでちー!」

「お兄ちゃんとお散歩……楽しみっ!」

 ノエルが初めてのおつかいに出かける子供を見守るかのように微笑み、ディーネが俺の背中に抱きつき、メルが手を繋いでくる。

 結局いつも通りか。

「カイ先生。もう、出発してもえぇんかな?」

「ラヴィ、お待たせ。もう大丈夫だよ」

「さよか。ほな行こか。まぁ言うても、そないに遠くないんやけどな」

 ラヴィを先頭に、俺たちも歩きだす。

 遺跡があった方向とは真逆だな……と思っていると、リアの木から少し離れたところでノエルが口を開く。


「さて、リアちゃんからこれくらい離れたら大丈夫かしら」

「ん? その言い方は、何か力を使おうとしているの?」

「そういうこと。とはいえ、ママが力を使うにはカイちゃんの魔力が必要だから、まずは何をするか説明するけど、簡単に言うと道を作ろうと思うの」

「道? 所々に草が生えていたり、大きめの石が落ちていたりすることはあるけど、普通に歩けるよ?」

 まさかノエルが道路みたいに舗装された道を作ると言っているとも思えないし、一体何をするのだろうか。

 仮に舗装された道を作ったとしても、車は勿論、馬車なんかもないから、あんまり意味が無いような気がするんだけど。

「道っていうのは、ママが使うための精霊の通り道……と言えば良いかしら。行きは道を作りながら行く必要はあるけど、帰りは既に精霊の道があるから、すごく早く帰れるわよ」

「なるほど。今日中に帰れるってリアに言ったのは、その道を作るからか」

「その通りよ。というわけで、カイちゃん。精霊の道を作るために魔力をもらうわよ?」

「うん、わかったよ」

 そう言うと、ノエルが俺の足を優しく撫でる。

 何となく足が光っている様に見えなくもないんだけど、これが道を作る方法なのか?

「カイちゃんが今の状態のまま、普通に歩いてくれれば精霊の道が出来るの。ママは兎耳族さんの村の場所を知っているから、丁度その手前で効果が切れるくらいにしておいたから、カイちゃんは何も気にせずに歩くだけで良いわよ」

 ノエルは最年長? なだけあって、力の使い方がすごい。

 魔力を貰うために説明してくれたけど、そうでなければ何も知らずに精霊の道ができあがっていたと思う。

「ディーネだって、みずのせいれいとおはなしして、ばしょをしってるでち」

「め、メルたんだってすごいもん! えっとえっと……が、頑張れば兎耳族さんの村への通り道に、屋根を作ることが出来るもん!」

 俺の表情から何かを察したのか、ディーネとメルが張り合いだした。

 ただメルの言う、ラヴィの村まで続く屋根を作ったら、俺が魔力不足で気絶してしまう気がするけどね。

 それを回避するために、未だにリアの木の周りの堀に、少しずつ鉄板を出しているわけだし。

 そんなことを考えながらも、ラヴィと一緒に歩いていく。

 少し進んで後ろを振り返り、自分が通った道を見てみると……薄っすら光っているような気もする。

 これが精霊の道のようだ。

 それから、しばらく歩いてリアの木がかなり小さくなると、不意にラヴィが足を止めて叫びだす。

「アカン! 魔物が来てるわっ!」

「魔物!? そんなの何も見えないよ?」

「カイ先生。ウチは兎耳族やで? ウチの耳を舐めたらアカン! もうすぐ、あっちから魔物が……ほら、ワイルド・ウルフが五体来てるやろ!」

 ラヴィが指をさす方向から、何度か見た狼の魔物が向かって来るのが遠目に見える。

 なんとかして撃退しなければならないんだけど、魔物が五体もいるのと、堀みたいなものがないから、小さな魔法陣では魔物が踏んでくれるかわからない。

 というわけで、こんな魔法陣を作ってみた。


≪もしも、魔物が近付いてきたら、まとめて遠くへ吹き飛ばす≫


 ディーネを呼んで魔法陣に力を込めてもらいつつも、ぶっつけ本番で思った通りの効果が得られなかったら危ないので、メルにも傍で控えてもらう。

 あの魔法陣で一体しか吹き飛ばないとか、そもそも発動しなかったら、メルに金属の塊を発してもらおうと思いながら、様子を見ていると、先頭の一体が魔法陣に近付いて来て……五体まとめて吹き飛んだっ!

 よし、成功っ! と思ったのも束の間で、俺の魔法陣への指定が悪かったらしく、出てきた水の量がものすごくて、結構な水しぶきが俺とラヴィにかかってしまった。

「カイ先生がすごいのはよーく知ってるけど、もう少し威力は抑えてもえーんちゃうかな?」

「ごめん……って、ラヴィ!? な、何をしているの!?」

「何って、濡れた服を着たままやと、風邪を引いてまうやろ? というか、カイ先生も脱がなあかんって」

 びしょ濡れになったラヴィが服を脱ぎだし、止める間もなく下着姿になると、俺の服も脱がそうとしてくる。

「ちょ、ちょっと待って! 俺は大丈夫だから……」

「何言うてんねん! 風邪を舐めたらアカンで! こんなとこで風邪ひいてみ? 誰も治癒魔法を使われへんねんで!?」

 そう言われると、ぐうの音も出ず、ラヴィに服を脱がされてしまった。

 さすがに下着は死守したけどね。

「ラヴィ。一緒に服の水を絞って着ようよ?」

「なんで?」

「いや、だって下着裸だし……」

「別にえーやん。街や村やったら、服を着てないと怒られるけど、ここはカイ先生しかおらへんし、ウチは気にせーへんで? それに、普段から一緒に水浴びしてるやん」

 俺が気にするってば。まぁその、水浴びのことを言われると、なにも言い返せないけどさ。

 とりあえず、メルに頼んで細長い棒を出してもらうと、そこに俺とラヴィの服を通して、二人で持ちながら歩く。

 物干し竿を持ちながら移動するという、ちょっとシュールな感じで進んでいると、前を歩くラヴィが再び足を止めた。

「あー、また魔物が来たわ。さっきと同じ種類で、ワイルド・ウルフやな」

「最近は、あんまりあの狼の魔物を見なくなっていたのにね」

「魔物も学習してるんとちゃうかなー? あの木の周りはヤバいって」

「なるほど。来たら追い払うだけで、こっちから魔物を狩ったりはしていないから、あの木に近付かなければ良いって思われているのかも」

 ただ、狼の魔物についてはその通りだけど、鳥はその肉を食料にするため、鳥笛を使って呼び寄せているけどね。

 さて、さっきは水の量が多過ぎて大変なことになったから、次は土だとどうだろうか。

 そんなことを考えながら、魔法陣に何を記すかと考えていると、

「お兄ちゃん! 次はメルたんの番! というか、ディーネちゃんに同じことをしてもらったら、ラヴィさんが寒い! とか言いだして、お兄ちゃんに抱きついて来そうだから却下!」

 メルが叫びながらしがみついてくる。

 メルはラヴィの言葉がわからないはずだけど、雰囲気で察しているようで、しかもあながち外れていない。確かにラヴィは言ってきそうだ。

「カイちゃん。次は魔物が三体みたいだし、ママとメルちゃんとディーネちゃんとで、個別撃破したらどうかしら? それならさっきみたいなことにはならないでしょ?」

「確かにそうだな。魔法陣を三つ作れば良いのか」

「えぇ。ただ、念のために何かあったらママたちが対応出来るようにしておかないといけないけどね」

 ディーネは魔法陣を介さずに力を使う場合、魔物を吹き飛ばすような水の出し方は出来ないそうなので、万が一の対応にはメルが適していると思っていたのだが、ノエルも何とか出来るそうだ。

 というわけで、基本は魔法陣を作って一体ずつ倒し、万が一の場合はメルとノエルが対応するという段取りで、同じ魔法陣を三つ作る。


≪もしも、魔物が上を通ったら、遠くへ吹き飛ばす≫


 作った三つの魔法陣のそれぞれにディーネ、メル、ノエルの力を込めてもらった。

 後は、それぞれの魔法陣の上を、魔物が上手く通過してくれるかどうかだな。