「カイ君。ラヴィさんは、どうしてカイ君に抱きついているのかな?」

「カイ先生! リアは何て言ってるん?」

「お兄ちゃん! メルたんも抱っこー!」

 ラヴィが、ここへ押しかけてきて、早数日。

 リアたちはラヴィの言葉がわからず、ラヴィはリアたちの言葉がわからないため、意思疎通ができなくて、毎回俺が双方の通訳をする羽目になっていた。

 ……なんて言うか、精神的に疲れるね。

 ただ、ラヴィは精霊語を覚えたいと言っていて、勉強には意欲的に取り組んでいるので、それは救いだろうか。

 でも教科書などはなく、俺もラヴィと会話は出来るものの、文字は自動で翻訳されないみたいなので、口頭で教えるしかない。

 そのため、なかなか成果が出ず、どうすればよいのかと、悩まされる日々だ。

 そもそも、俺は人に何かを教えたりしたことなんてほとんど無いし……とりあえず、休憩にしようか。

「ラヴィ。そろそろお昼ご飯にしよう」

 そう言って、俺の手元にある本を閉じる。

 この本はラヴィの数少ない荷物のあった物で、元は日記用として使い始めたばかりだったらしい。

 それを、鉛筆みたいなペンと共に、俺がラヴィの文字を教えてもらう為に使わせてもらっている。俺がラヴィの文字を扱えるようになったら、ラヴィへ精霊語を教える効率もよくなりそうだしね。

 という訳で、ラヴィが来てからの数日で、ここの暮らしも大きく変わっている。

 食器類はメルが来た時に作ってもらっていたけど、これをラヴィの分も用意してもらったのと、リアがそれらを片付ける棚や、勉強や食事に使うテーブルと椅子も作ってもらった。

 まぁ作ったと言っても、リアに棚やテーブルのイメージが伝わらず、大雑把な材料を用意してもらって、俺とメルで完成させたんだけど。

 あと服装は相変わらず異世界へ来た時のままだけど、家具がかなり増え、生活レベルがかなり向上した気がするね。

「お昼ご飯はえーんやけど、それより前から気になってたことがあって、カイ先生ってお肉は嫌いなん?」

「え? そんなことはないよ?」

「でも、その割にリアから出してもらった野菜しか食べてへんやん」

 ラヴィが不思議そうに聞いてくるけど、俺だってお肉があるなら食べたいよ?

 でも、この辺りで唯一食べられそうな動物といえば、あの魔物のワイルド・ウルフだけなんだよね。

 魔物っていうのが、動物となにが違うかわかっていないからなんとも言えないけど、狼の肉を食べるっていうのはちょっと抵抗がある。他に食べ物がまったくなければともかく、リアが美味しい作物を出してくれるから、なおさら食べようとは思わない。