聡里が学校に来ないのは自分のせいなのではないか。
 もう一週間が経っている。未だに登校してこないのはやはり自分のせいなのでは。

朱里に慰めてもらったものの、どうしても罪悪感が拭えない。
 もしかして聡里の家に行って話をしなければならないのか。

「白井くん」
「じょ、城之内さん」

 席で悶々と頭を抱えて考えていると朱里が傍に寄ってきた。

「友達といたんじゃないの?折角の昼休みなんだし」
「いいの。白井くんが何か悩んでいるように見えたから。どうかしたの?」

 その優しさが胸にきた。

「やっぱり俺、聡里の家に行ってみようと思って」
「どうして急に?」
「なんというか、罪悪感があって」

 後ろめたさがあって目を合わせられない。

「そっかぁ、でも今日は駄目だよ」
「ど、どうして?」

 困ったように眉を下げる朱里にだが、幸雄は何故駄目なのか分からなかった。

「今日は私が行くから」
「えっ、ごめん、もしかして俺のせいで」
「違うよ!そうじゃなくて、聡里ちゃんに誘われたから」
「家に行くの?」
「うん、そうだよ」

 本当にいいのか。
 聡里の様子からして楽しくお話をするわけでもないだろう。
 むしろ暴言吐いたりするのではないか。

 ここで聡里に対しての気遣いがないことに今更ながら気が付いた。
 聡里が学校に来ない心配よりも、聡里の家に行って朱里が何かされるのではないかという心配をしている辺り、自分は聡里よりも朱里を優先して考えている。

 あれだけ一緒にいた聡里よりも会って少ししか経っていない朱里を大切に思っているなんて。しかし好きなのだから、何もおかしいことではない。

「白井くん、どうかした?」
「いや、何でもないよ。でも心配だから何かあったら連絡してね」
「…私と白井くんって連絡先交換してたっけ?」
「あ、あれ、してなかったかな」

 急いで携帯を出して名前を確認するがどこにもなかった。
 交換していたものだと思っていた。普段からメールも電話もしない方なので、勘違いしていたようだ。

「ごめん、俺あんまりメールとかしないから、つい」
「ううん、私もそこまでマメな方じゃないからお互い様だよ」

薄ピンクの携帯を取り出して連絡先を教えてくれた。
 携帯に城之内朱里という名前が入っただけで胸がドキドキした。

好きな子の連絡先ってこんなに嬉しいものなのか。

「でも、白井くん変なの。何かあったらって、まるで私が聡里ちゃんに何かされるみたいだね」

 そういう想像をしました、と言ったら軽蔑されるだろうか。お前を好いてくれる女に対して、何てことを言うんだと思われるだろう。
 まさか自分がこんな人間だったなんて思わなかった。
 恋愛は人を変えるというが、自分もその中の一人だったというわけだ。

「でも実際、聡里は結構気が強い奴だから、なるべく気をつけてな」
「うん、ありがとう」

 恋は盲目というがまさにその通りだ。
 今、目の前の女の子の心配以外していない。聡里への気持ちもない。「城之内さんに変なことしないでくれ」という思い以外は本当にないのだ。
 案外自分はそこまで聡里を大事に思っていなかったのかもしれない。
 今まで一緒にいたのは小学校からの付き合いで、幼馴染という肩書があったために一緒にいたのかもしれない。
 そう思い始めると、本当にその通りだと思えてきた。

 聡里が嫌いなわけではない。しかし特に好きだということもない。どちらか片方を選べと言われたら好きな部類に入るのだろう。
 優先順位をつけるとなると、割と下の方になるなと今更ながらに思った。

「白井くん」
「何?」
「白井くんは、白井くんだね」

 なんだか嬉しそうに笑っているが何の話かよく分からなかった。

「じゃあ放課後、聡里ちゃんの家に行ってくるね」
「おう、気をつけて」
「ふふ、何度言うの。大丈夫だよ」

 大事なんだから仕方ない、と心の中で苦笑した。