翌日から、聡里は学校に来なくなった。
 自分に会いたくないからだろう。それしか思い浮かばない。
 聡里の友達はチラチラと見てくるので文句のひとつやふたつ言われるのを覚悟していた。しかし何も言って来ないので聡里から聞いていないか、自分の出る幕ではないと思っているのか。どちらにせよ、安堵した。
 我ながら酷い男だと思う。

 いつもなら聡里と過ごしていた時間を必然的に朱里と過ごすことになった。
 下校や昼休みなど、聡里がいたはずだった場所は朱里へと変わった。
 もうこれはカップルなのでは、と思いながら横を歩いた。

「なぁなぁ、白井よ」

 とある休憩時間、朱里が教師に呼ばれて職員室へ行っている間に、友達が数名話しかけてきた。

「なんだ?」
「お前、城之内さんと付き合ってるのか?」

 この質問もよくされるようになった。付き合っているわけではない。一緒にいるだけでそんな仲にはなっていない。

「いや、違うけど」
「なんかさー、お前らいっつも一緒にいるじゃん」
「そうか?」
「そうだよ。聡里ちゃんが学校来ないのってもしかしてお前のせいだったりして」

 そう指摘されギクっとした。
 誰かにそう言われたわけではないが、ただもしかしたらそうなのではないか、と思っていた。
 やはり自分のせいだろうか。

「お前聡里ちゃんのことが好きだったんじゃねえの?」
「は、はぁ?なんだよ、それ」
「違うのか?なんかそんな風に見えてた」

 聡里を好きなように見えたと言われ、考える。
 気のあるそぶりでもしていただろうか。
 いや、ない。そもそも聡里をそういう目で見たことはなかったからだ。
 もしかしたら聡里も、この友達のように「あたしに気があるの?」と思っていたのだろうか。

「あー、なんかごめん。俺らそういうつもりで聞いたんじゃねえわ」
「いや、大丈夫」
「あの可愛い城之内さんとマジで付き合ってんのか知りたかっただけでさ」
「おー」
「マジごめんな」

 すまんすまん、と軽く謝りながら去っていく友達。

 第三者から見ると聡里に好意があるように見えていたのか。
 普通に会話して普通に一緒にいて普通に喧嘩するくらいの関係だ。小学生の頃から今まで学校が同じで話す機会が多かった、それだけだ。

「先生の話、長かったよー」

 数分後、朱里が職員室から戻り、幸雄の元へ帰ってきた。

「なぁ、俺ってさ、聡里のことが好きそう?」
「うん?どうして聡里ちゃん?」

 いきなり聡里の名前を出したことに驚いているようだった。それもそのはず、聡里の話はなるべく避けてきたからだ。

「さっき言われたんだよ。聡里のことが好きだったんだろ、って。そんな風に見えてた?」
「私の見た限りでは、普通に友達って感じだったかな」
「だよなぁ、俺もそんなそぶりなんてしてないし…。もしかしたら、聡里に気のある行動をとってたのかなって。だったら聡里に悪いことしたかなー、と」

 好きな子にこんな相談はちょっと気が引けるが、仕方ない。

「うーん、白井くんと聡里ちゃんって幼馴染なんでしょう?」
「え、まあ、幼馴染っていうか、小学校から一緒ってだけで」
「それだと思う」
「ど、どれ?」

 朱里は頭がいい。小テストでも満点、先生に当てられたときだってスラスラと答えている。だからこういう場面でもその頭の良さを用いて考えてくれた。

「幼馴染ってことは一番距離が近いってことでしょう。聡里ちゃんにその意識があったのかは知らないけど、でも普通に考えて、ゆくゆくは彼女になるって思ってたんじゃないかな。もちろん、他の人たちも」
「え、えぇ?」
「小学校から一緒だし、一番距離が近い女の子、そんな聡里ちゃんを彼女にするのは至極当然な気がするわ」

ならば自分がどうこうというわけではなく、小学校から一緒の幼馴染的ポジションが悪かったということか。

「運命だって、白井くんも思わなかった?」
「...あ、一回聡里に言ったことがあるような。じゃあ、聡里もそう思ってたのかな」
「さぁ、でも、ちょっとくらい期待はしていたと思うな」

 ならば、自分は悪くない。

「し、白井くんは…」
「うん?」
「今の話を聞いて、聡里ちゃんを意識した?」
「いや、全然」
「そ、そっか」

 否定すると安堵した様子を見せた。
 それを見て、これぞ気があるそぶりというものなのではと、そう思わずにはいられなかった。