「はぁ?好きになったぁ?」
このときめきは絶対に恋だ。ということを休日、幸雄の部屋にて聡里に報告した。
男の部屋だというのに恥じらうことなく胡坐をかいている聡里は、報告を聞くとともに怒りを露わにした。
「おう、多分初めて会ったあのときからだ」
「....なんであたしに言うのよ」
「だってお前、城之内さんのこと嫌いって言ってただろ。でも俺は好きだから、あまり城之内さんの悪口とか聞きたくない」
好きな子の悪口を聞きたい男が、この世に存在するだろうか。
「あんな養殖のどこがいいのよ」
ボソっと呟く聡里の声を拾い、答える。
「前も言っただろ。養殖だろうがなんだろうが、可愛いから良いんだって」
「だって絶対あの子性格悪いよ」
「例えそれが本当だとしても、好きになったんだから受け入れるさ」
よく知りもしない相手を好きになったが、後から本性を知って嫌いになった。なんてそんなカッコ悪いことはできない。それにどれだけ性格悪かったとしても好きになったのだからどうしようもない。
「むかつく」
「何だ?」
「あんたのそれは恋愛じゃないわよ」
「いやいや、それは俺が決めるから」
そう言われると否定できないものもあるが、この感情に恋愛と名付けたのだからそれでいいのだ。
長年一緒にいる聡里の方が、幸雄より幸雄を知っているかもしれない。けれどもう決めたのだ。
「助けてくれた美少女が転校生で現れて、それで気になってるだけでしょ。少女漫画みたいな展開に浮かれて勘違いしてるだけよ」
でも、この胸のときめきは本当なわけで。
結論を言うなら、惹かれているわけで。
何やらしょぼくれている聡里には悪いが好きなのだから、仕方ない。
「分かった。あたしがあの女を暴いてやるわよ」
「はぁ?」
「だって、おかしいじゃない!普通あんな女いないわよ!」
天使のような彼女は人間なのだ。同じ人間なのだ。
暴くも何も天使の皮を被った人間だ。
「絶対何か裏があるはずよ。でないとあたしが….」
「なんだって?」
「なんでもないわ!とにかく、見てなさい!」
それだけ言って聡里は部屋を出て行った。
怖い顔をして出て行った。
顔は悪くないのに性格ですべて残念になっていると思う。
幸雄は朱里を性格の悪い女とは思わない。なぜなら嘘を吐いていないように見えるからだ。
何故聡里はあんなにも打倒朱里を掲げているのか幸雄には分からない。
聡里があそこまで執着するのは初めてだ。何かを感じ取ったのだろうか。
聡里と朱里は見た目も中身もジャンルが違う、タイプが違う。
違う二人を比べたとして優劣は決めにくい。以前、何故聡里の方が劣っていると思ったのか。それはただ単に、好みの問題だ。
ツンツンしている強気な女よりも、可愛らしい子が好きだからだ。聡里は可愛げがない、朱里は可愛かった。ただそれだけだ。
聡里は執着しているように見えるが、朱里は特に聡里を気にかけていない。
あれだけ自分を嫌う理由は何だろうか、自分が何かしたのだろうか。そういう不安や疑問はあるだろうが、それ以上は何もない。
幸雄が思う朱里の友達のモットーは、聡里と真逆の、広く浅くだと思う。「親友」がいなくても一人で生きていけるような強い人間なのだと分析した。
小学生の頃から一緒にいる聡里に、性格が悪いからやめておけ、そう言われたからと言って、やめる理由にはならない。
芽生えた感情というのはどうにも簡単になくなってはくれないのだ。
あっさりその芽を枯らしたくないし、立派に育ててあげたい。
聡里と好みは違うし、見方も考え方も違う。違う人間にどうこう言われても、頭の片隅に置いておくだけで聞き入れることはしない。
聡里はその辺りが、分かっていない。昔も、今も。
聡里のことは嫌いではない。
だが、特別好きということもない。
ただ、小学校から今まで一緒にいた女子。幸雄にとって聡里はそんなものだった。