第二日曜日は祈り日であり、毎月この日の宮殿前広場はたくさんの見物客で溢れかえる。エレノアは祈りの衣装に着替えて、緊張した面持ちで大聖堂へと向かっていた。

 サンベルクの民は古くから純粋な信徒であり、皆が女神オーディアの加護を待ちわびている。

(私は彼らの期待に応えなければならない)

 時間をかけて禊を行い、女神像の前で祈りの儀式を行った。

 白妙の衣装はエレノアの白銀の髪を清らかに飾る。やがてふわり、と髪がなびき、エレノアの躰が青白く光った。鮮烈な光ではなく、やさしくおだやかな輝き。まるで、女神が地上に降りてきた瞬間である、と人々は感嘆した。
 エレノアの碧眼が宝石のようにきらめいた。見物客がどっと沸くと、あたたかな風が一帯を吹き抜けていく。

(オーディア様、サンベルクの民に、今ひとたび、オーディア様のご加護を)

 木々の緑が深まり、川の水が澄み、空の色が鮮やかになる。
 民の願いを皇女が代弁する。こうして、女神オーディアは呼びかけに応え、人間が暮らす大地へと加護を与える──。


「エレノア皇女殿下! 本日も見事な祈りでございました!」
「皇女殿下はさながら太陽の光のよう! 我が国の誇りでございます!」
「伴侶を探されているというのは、誠でございますか?」
「どうか一度でよいので、ぜひ僕とお食事でも!」
「いやいや! こんな身分の低い男どもでは満足されないでしょう。このシャルル家の嫡男であるこの僕こそが――」
「エレノア皇女殿下!」
「エレノア皇女殿下―!」
「どうかその尊い御顔を…!」

 祈りが終わって宮殿前広場に戻ると、エレノアは溢れかえるばかりの男性に取り囲まれた。

「お相手はもう決められておられるのですか?」
「あ…あの、」
「決められていないのであれば、ぜひ僕と!」
「ひゃっ…!」

 顔を真っ赤にさせて近づいてきた青年は、感情の赴くままにエレノアの手を握ろうとした。あまりに突然のことにエレノアは混乱して、足をふらつかせてしまう。

「エレノア皇女殿下、お下がりください。ここは私が」

 エレノアについていた近衛騎士を差し置いて、すかさず男性たちの間に割り入ってくる軍人がいた。エレノアはその人物が誰であるのかが分かるなり、急に気恥ずかしくなって俯いた。

「者共下がれ! 尊き皇女殿下の御前であることを忘れるな!」

 さわやかな亜麻色の髪。軍人らしい精悍な出で立ち。サンベルク帝国、国境防衛軍特別遊撃隊隊長のハインリヒだ。

「あれは…ローレンス侯爵家の…!」
「ちっ、ハインリヒが相手ではかなわんな…」

 たくさんの人に囲まれて狼狽していたエレノアは、ハインリヒに導かれるようにして宮殿の中に戻っていく。彼らが立ち去ったあとの宮殿前広場は、エレノアがハインリヒを未来の伴侶として選ぶらしい――という話題で持ち切りになったのだった。