もうすぐ母の日! 私は大好きなママのために、絵を描いてプレゼントすることにした。何を描こう、んー、そうだ! きれいな虹を描こう。ママはいつも疲れた顔をしているから、大変なことも全部吹っ飛ぶくらい上手で楽しい絵にしたいな。赤と青と黄色とオレンジと……。鮮やかなクレヨンをたくさん使って、紙と手を染めていく。喜んでくれるかな?
 
 私はママが大好き! 怒るとちょっと怖いけど、叱るのは私のため、なんだって。ママはいつも私のためにいろいろなことをしてくれるの。ママの帰りが遅かったとき、寂しくて泣いてたら、ママは帰ってすぐに私をぎゅぅーっと抱きしめてくれたの。少し息が苦しかったけど、気持ちよかったな。
 
 5月14日、私はママのために描いた虹と自然と青空の絵をプレゼントした。ママは、
「うわぁ、すごい絵ね! ありがとう」
と言って、大事にしている真っ黒で重そうなカメラで、写真を撮ってくれた。

 ママがお風呂に入った時、私はさっきのカメラが気になって、小さなボタンを押したり、レンズをのぞいてみたりした。「ピー」って音がしたり、丸い筒が伸びたりして、おもしろい。
 
 体がこわばった。
「何やってるのっ! 」
急に大きな声が耳に刺さって、ゾワッとした。
「ご、ごめんなさ」
涙が出てきた。溢れて、溢れて、我慢しても、声が出てしまう。ママはギャンギャンうるしい子供が嫌いなのに。
「う、ぐっ、ごめんな、さい、んっ」
 カメラを取り上げられて、硬いものが飛んで頭に当たった。
 プレゼントの絵には赤が飛び散っていた。
 
 何も見えない。
 何も聞こえない。
 痛い、痛い、痛い、痛い。
 痛みの中で、ママに抱きしめられた時のことを思い出した。
 ママが強く抱きしめてくれたときの跡は、ママが私を愛している印。私の首にはママの爪跡が残っている。