「っ、は……」

 だけどやってきたのは、死に至るほどの衝撃でも痛みでもない。

 どっと少しの衝撃となにかに包みこまれる感覚に、驚いて目をあける。

 そこには男の顔があった。
 どうやら落ちてきたわたしを受け止めてくれたらしく、絵に描いたような無表情がこちらを見下ろしている。


「あ、ありがとう、ございます」
「お怪我はありませんか」

 平坦な声色で紡がれたそれが、わたしに向けられたものじゃないことは、すぐにわかった。
 その証拠にわたしに注がれていた視線は、支えられていた体とともに離されて。


「マスター」

 男がたしかな形を唇に乗せてつぶやき、その感情の読み取れない顔を向けたのは、彼の後ろから迷惑そうにこちらを伺うスーツ姿の女性だった。


「あなたこれ、まさか壊してないでしょうね」

 顔をしかめた彼女は心底うんざりしたように前髪を掻きあげた。


「ローン払い終わったばかりなんだから、勘弁してよ」