――と、まあ。
 これがわたしの走馬灯だったりするのかもしれない。

 ひさしぶりに昔のことを思い出したのは、駅の階段から落っこちながらだった。
 大胆に傾いた世界で、わたしとぶつかったサラリーマンらしき男の人が、顔を青くして落ちゆくわたしを見下ろしていた。

 大丈夫。あなたのせいじゃないですよ。わたしも急いでいたから。
 そう、これは自業自得なので。

 人は死を確信したら冷静になるというのはどうやら迷信ではないらしい。
 16歳で死んでしまうことに、恐怖もなにも湧いてこなかった。それどころか、やっとか、という気持ちさえあった。

 むしろ近くに居合わせた人たちのほうが動揺し、わたしに変わって悲鳴をあげてくれている人もいた。
 それらをバックコーラスに、せめていい思い出の走馬灯も見られないだろうかと目を瞑った。

 しかし、瞼の裏には暗闇が広がるだけだった。

 どうやらわたしの人生には振り返るほどの価値も、いい思い出もないらしい。
 思わず自嘲的な笑みがこぼれ、さすがに少し悲しくなった。

 すぐに、しょうがないことだと諦めがつく。
 それがわたし、藤白(ふじしろ)あまりにお似合いな人生の結末なのだろう。

 もうすぐやってくるであろう衝撃や痛みに備え、ふたたび強く目を瞑る。