ガチャッ。

 大きな窓の金具が開けられる音が響く。

 部屋の主、窓の方に視線を映した。

「来たか、『シュベスタ』」

「お久しぶりです。ビズリオ様」

 黒い装束に身を纏っている彼女に、ビズリオは安堵の息を吐く。

「どうやら我々(・・)をお探しのようで」

「ああ。仕事を頼みたい」

「……かしこまりました。ですが、その報酬をこちらで指定させて頂きます」

「いいだろう。どんな報酬がご希望だ?」

「はい。『盗賊ギルド』の権利を頂きたい」

「ほぉ…………珍しい所だな?」

「ええ。それと『盗賊ギルド』は我々で対処します。ですので……」

「いいだろう。俺の方からこれからの『盗賊ギルド』は『シュルト』が支配する事を承認する事とする」

「感謝申し上げます。ではビズリオ様のご依頼は?」

「現在の王国の情勢は知っているか?」

「少しは、前回のハレイン様の件でしょうか?」

「ああ。ハレインが――――王国に反旗を(ひるがえ)するかも知れない。その証拠をいち早く見つけて来てくれ」

「……かしこまりました」

 部屋から彼女の姿がなくなり、窓は元通りに戻った。

「『盗賊ギルド』か。という事は、闇の者でもあるのか」

 ビズリオは彼女の正体について考え始めた。



 ◇



 ミリシャさん達も冒険者ギルドから戻って来て『Aランクダンジョン』について話してくれた。

「ええええ!? そんなに簡単に!?」

「ええ。まさか、『Aランクダンジョン』に入るには、受付嬢の三名の推薦があれば、許可証が貰えるとは思わなかったよ。おかげで、簡単な手続きだけで許可証を手に入れたよ!」

 ミリシャさんが一枚の紙を見せてくれる。

 冒険者ギルドの証明の判子が押してある。

「ではこれでダンジョンは解決しましたね。これでレベル上げの件は解決した……あとはビズリオ様の件ですね」

「ええ。私の考えでは、ビズリオ様の件を真っ先に進めるべきだと思うわ」

 それに他のメンバーも賛成の手をあげる。

「ただ、あまりに大勢で向かっても怪しまれると思うから、今回も二手で分かれるべきね」

 そう告げるミリシャさんに俺達も納得したように頷いて返す。

「ビズリオ様の件は、闇に紛れる人達がいいわね。ルリくん、ルナちゃん――――そして、新しく名前になったシヤちゃん」

「「はい」」

「初仕事、任せてください」

 ルリくんとルナちゃん、そしてシヤさんが答えた。

「今回の鍵を握るのは、シヤさん、貴方よ。貴方の力があれば、この依頼は簡単にこなせると思うわ」

「はい」

「現地での作戦は私達も一緒に考えるので、お願いね」

 これで三人は、ハレイン様が関わっている新しい領に向かう事となった。

 ハレイン様は『銀朱の蒼穹』にルリくん、ルナちゃん、シヤさんが入っている事は知らないはずだ。

 なので、顔バレする心配もない。

 三人は早速新しい領に向かって、出発して貰った。

「では、残りのメンバーで『Aランクダンジョン』に入る事にします。最優先として、フィリアのレベルを――――」

「待って」

「ん? どうしたの? フィリア」

「えっと…………出来れば、先にソラのレベルを上げたい」

「ん? でも僕は今でも沢山の仲間達が――――」

 隣にいたカールが僕の肩に手を上げる。

 そして、小さい声で俺に話しかけてきた。

「はぁ……バカソラ。フィリアが言いたいのは、そういう事じゃないだろう。最近他の仲間からばかり経験値を貰ってフィリアからはさっぱり貰ってないんだろう?」

「えっ? そ、そうだけど……? フィリアが一番強いし……」

「バカソラ。だからだよ。このままレベルを上げてしまうとますますあげる(・・・)チャンスがないんだよ。だから、先にあげたいんだよ。はぁ彼女の気持ちくらい汲んでやれ」

 あ、あっ、あああああああ、そういう事か……。

「ご、ごめん! 作戦変更だ! 俺のレベルを先に上げる事にしよう!」

 フィリアの表情が明るくなる。

 ミリシャさんは少しニヤけて仕方ないね~と、はぐらかしてくれた。

 そうして、俺達は『Aランクダンジョン』に向かう事となった。



 ◇



 ゼラリオン王城。

「陛下、『シュルト』に接点が得られました」

「ほぉ……稀代の暗殺集団か。よくやったビズリオ」

「はっ。ただ、今回は報酬は指定されました」

「ふむ?」

「どうやら『盗賊ギルド』の支配権が欲しいそうです」

「それほどの集団が、たかが『盗賊ギルド』を?」

「ええ。それと私の情報網から既に『盗賊ギルド』は掌握している模様です」

「くっくっくっ、あのハレインから密書を盗み出した者だ。あんな連中など掌握するのは造作もないだろう」

「はっ、恐らくこれからの『盗賊ギルド』が窓口になる事が予想されます」

「あれほどの腕を持つ暗殺集団か……良い手駒が我が国に入って来てくれたものだな」

「しかも、わざわざ私に接点を持とうとしました。という事は、我が国にその主人(・・)がいるという事を証明します」

「そうだな。その主人にコンタクトを取るのは難しいだろう。しかし、これで『シュルト』自体と接点が持てたのならそれでよい」

「はっ」

「ジェロームは?」

「念の為、()に」

「うむ。また戦いになるのなら、今度は我も出る」

「はっ、レボルシオン領から装備の購入を急ぎます」

「…………あの下民の領か」

「どうやら凄まじい速度で発展を遂げているそうです」

「そればかりはハレインの目が本物だったって事か」

「ですが、どうやらレボルシオン領は、ハレインではなく、王国に味方をしてくれるみたいです。今回の装備もこちらでしっかり売ってくれるのですから。しかも随分と良い品をです」

「そうか…………下民の領と思っていたが、この戦いが終わったら、領主に会いに行くか」

「会いに……でございますか?」

「ああ。それが礼儀(・・)というものだろう」

「はっ。その時はお供致します」

 王が会いに行くというのは、最大限の礼儀である。

 本来なら呼ぶ(・・)のが正しい。

 しかし、ソラ達の事を下民と思っていた王は、少し考えを変えようとしていた。