俺達はゲシリアン子爵領の中心地、ゲスロン街に辿り着いた。

 ここに来るまで三十人の子供達にこれから何をするかを説明し終えていたので、到着と同時に全員で教会を訪れた。

 教会に料金を支払い、十歳の子供三人とメイリちゃんの職能を開花させた。

 四人とも『無職』だったけど、誰一人悲しい顔はしていない。寧ろ、笑顔だ。

 これで『銀朱の蒼穹』の傘下組織を作れると知っている為、彼女達は希望の笑みを浮かべていた。

 そのまま俺達は宿屋を取り、大部屋三つを借りて、クラン用部屋と、子供達を半分に分けて借りた。


「よし、ではメイリ達には予定通りにやって貰うよ?」

「「「「はい!」」」」

「うん。ではメイリちゃんをリーダーにする。職能は『回復士』。そして、まず唯一の男子のロイドくんは『盾士』。アカネちゃんは『魔法使い』。ソーネちゃんは『弓士』。それぞれの戦い方は既に話した通りで、明日の朝から練習に行くのでそのつもりでね!」

「「「「はい!」」」」

 その日は宿屋でゆっくり休んだ。

 四人の練習が終われば、これからは子供達だけで頑張って貰う予定だけど、俺の目算なら四人でも三十人の子供を養えると思う。

 俺が想像していた以上に中級職能と『経験値アップ③』が凄まじい効果を持っていて、レベルが正義でもあるこの世界で、『経験値アップ③』で一瞬でレベルを5くらいまで上げれば、後は苦労する事もないだろう。


 次の日。

 彼女達を連れてゲスロン街の東にあるゲスロン平原に向かった。

 Eランク魔物のゴブリンと、たまに強敵のDランクのゴブリンリーダーが現れるが一日一匹くらいしか現れない。

 なので、非常に初心者向きな平原で、ゴブリンは倒すと消えるタイプの魔物で、くず鉄のかけらを必ず落として、たまに極小魔石を落とすので、それを集めればそれなりの収入にもなるはずだ。

 それよりもここでレベルを2まで上げたら、ゲスロン街の西にあるゲシリアン平原でスモールボアとビッグボアが出るので、そこで肉を狩るのが一番の効率だろう。

 ただ、彼女達には練習が大事なので、まずは戦いにくいゴブリンを相手にしつつ、連携力を上げるのが目的だ。


 ゴブリンが数匹、視界に入り、まず盾士のロイドくんが釣りに行く。

 ゴブリンを釣りつつ、パーティーから横向きでゴブリンの攻撃を大盾で防ぐ。

 その隙間に弓士と魔法使いの攻撃でゴブリンを一撃で沈めていく。

「あっ! レベルが上がりました!」

 メイリちゃんは嬉しそうに声を上げた。

 その声にミリシャさんが反応する。

「やっぱり早いわね……」

「ゴブリン五体ですから、本来なら五十体ですもんね……」

「うん。やっぱりソラくんのスキルは凄まじいわ……メイリちゃん! 少し大変かも知れないけど、ここで二時間ほど、狩り続けて貰える?」

「はいっ! ミリシャマネージャ!」

 四人が敬礼ポーズをして、近くのゴブリンの群れに飛びついた。

 俺達はその戦いを見ながら、アドバイスをしつつ、二時間後には既にレベルが3になった彼女達は最早ゴブリンを片手間で殲滅していた。

 何なら弓士のソーネちゃん一人で無双が始まっていた。

 彼女のパーティーが倒したゴブリンの跡に落ちた戦利品は、職能を持ってない子供達が回収しに行く。

 決して無理はせず、パーティーだけでなく戦利品回収までメイリちゃんが指揮している。

 元々子供達を指揮していただけあって、とてもスムーズだし、誰もメイリちゃんの指揮に疑いを持たないし、不満も言わない。それぞれが理解して納得している感じがとても良いパーティーが出来そうだね。


 狩りが終わり、子供達も手いっぱいの戦利品を持って、冒険者ギルドで換金する。

 中々の額が集まって、それを見てると皆の分の食事も余裕で食べれそうで安心した。これがスモールボアならもっと稼げているはずだから、余裕は沢山出ると思う。

 その後、近くの服屋で紋章を三十枚を頼んで、その日も宿屋に泊った。

 次の日。

 俺とフィリアは服屋に紋章を取りに行き、他は全員でまたゴブリン達を狩りに向かった。

 暫く待っていると、服屋に執事の格好の人が入って来て、真っすぐ俺の前に立った。

「ソラ様でございますね?」

「えっ? はい」

「クラン『銀朱の蒼穹』のマスターのソラ様に、我が主からお願いがあって参りました」

「……主?」

「はっ、ゲシリアン子爵様でございます」

 執事さんの言葉に、俺とフィリアは顔を見つめ合うと、遂にやって来たのだと内心思った。

「まさか、俺みたいな新米クランに依頼ですか?」

「……はい。理解が早くて助かります」

 無表情のまま、頭を下げる執事さん。

「成程…………とても光栄でございます。その依頼、非力ながら受けさせて頂きます」

「感謝申し上げます。では明日の朝、お迎えに参ります。出来ればクランメンバーの皆様といらして頂けると助かります」

「分かりました。メンバー達にも伝えておきます」

「はっ、ではまた明日、宿屋にお邪魔します」

 ……既に調べはついているという事か。

 執事さんは無表情のまま、素早く服屋を後にした。

 少しして完成した紋章三十枚を貰い、俺達はパーティーの所に行き、孤児達全員に『銀朱の蒼穹の紋章』を渡して取り付けさせた。

 これで、彼らが俺達から離れたとしても、手を出してくる連中は決していないはずだ。

 冒険者ギルドの傘下である以上、貴族と言えど、簡単には手を出してこれないはず。

 後は……明日。

 ゲシリアン子爵との面会に不安を覚えながら、俺達は明日を迎えた。