敷島の憶測に、孝明は震える声で呟いた。紗栄子の顔見知りで、さらに十一年前の誘拐事件について知っているとなると、かなり限られてくる。
「アンタら二人とも、誰かに事件のことを話したことはないか?」
「は、話せるわけがないだろう! 自分が犯罪に関わっていたなんて、口が裂けても言えないよ!」
「……あれ?」
 考え込む二人をよそに穂香はふと、ある疑問が浮かんだ。
 孝明の場合は、紗栄子が話を切り出したことで、穂香が誘拐された一人だと知った。
 しかし和香子はどうだ? 当時六歳の穂香を言葉で惑わせ、連れ去ったのは自分だと自供したが、高校生になって気付いたとは到底思えない。
「和香子さんはどうやって私が誘拐された一人だと知ったんですか?」
「秦野くんから電話をもらって知ったの。だからほぼ同じくらいよ」
「そのとき、誰か近くにいませんでした? 孝明さんも、どこで電話したとか、場所も思い出してください」
「えっと……確か自宅だ、三ヵ月前くらいに自宅で連絡したんだ。紗栄子が高校の友達と旅行中でいなくてそのすきに。ただ和香子さんは仕事が忙しそうだったから、メッセージだけ送っていたんだけど……」
「内容を見て驚いて、思わず電話しちゃったのよね。その時は確か職場で……」
 ハッと顔を上げた和香子は唇を震わせ、顔が真っ青になる。察した穂香も、喉から出てくる手前で思わず口元を抑えた。
(まさか……っ)
 考えたくない。でもその人物であれば、すべて可能だった。
 それは敷島も同じだったようで、途端に孝明に掴みかかった。
「事件で使っていた山小屋の場所は⁉」
「スニーカーが見つかった川の上流にある山奥だよ、ほら、スニーカーが見つかった河川敷の上流にある山! でもなんで……」
「確証なんてないけど、そこにいる可能性は充分にある!」
 敷島の一声に、三人は顔色を変えた。