学校での騒ぎから二日後、穂香は再び式場に訪れていた。チャペルを見るたびに、ウエディングドレス姿の紗栄子を祝福できる日をずっと待ち望んでいたのに、しんと静まった空間にどこか虚しさを覚える。
 そこへ、西川和香子がいつも持ち歩いているスケジュール帳を片手に入ってきた。
「お待たせ。ごめんなさいね、ここしか空いてなくて」
「いえ、こちらこそすみません。でも挙式の予定は入っていないんですか?」
「珍しく入っていない日ね。だから独占できるわよ。もちろん、学校をサボってきたのは内緒にしておいてあげる」
「あはは……」
 サボりというのはもちろん建前だ。あの騒ぎがあった夜、学校から両親を通じて、三日間の自宅待機を言い渡された。森崎が再び訪れることを防ぐため、できれば自宅にもいないほうがいいと警察から言われたらしい。
 しばらく遠方の親戚に世話になることを提案されたが、穂香は「大学のオープンキャンパスを予約しているから」と言って出て行った。二日目となる今日も、二人が出かけたのを見計らって出歩いている時点で、危機感がないと呆れられるほどだ。
 和香子には昨晩のうちに連絡しており、時間に余裕がある午前中に約束を取り付けた。以前会った時よりも口調が砕けているのは、仕事モードに入る前だからだろう。
「何かわかったの?」
「え?」
「学校を休んでまでここに来たってことは、奥様……紗栄子さんのことでしょう?」
「……そうですね。二人が来たらお話します」
 二人? と首を傾げたところに、チャペルの扉が開いた。入ってきた人物を見た途端、和香子は目を見開いて驚いた。
「秦野様? どうしてここに?」
「…………」
 黙ったままの秦野孝明の背中を押すように、敷島は近くの椅子に座らせる。いつになく真っ青な顔色を浮かべる孝明を横目に、敷島は口を開いた。
「客とプランナーだからって、もう徹底しなくていいよ。二人とも、この式場に来る前からの知り合いなんだろ?」
「……何を言っているの?」
「この事件をご存じですか?」
 穂香がプリントアウトしたある新聞の記事を見せる。片隅にひっそりと記載されている【児童誘拐監禁事件】の文字に、和香子と孝明は目を背けた。
「十一年前、市内の児童二人を誘拐し、監禁した事件がありました。児童は無事保護され、主犯とされる相模透一が逮捕。その五年後、留置所で亡くなっています」
「それがどうしたの? 相模なんて男が紗栄子さんとどう関係して――」
「姉とは直接の関係はありません。出身地も大学も一切被っていませんから」
「……じゃあ、一体どういう……?」
「相模さんと関わりがあるのは、和香子さんと孝明さんです」
 途端、二人の表情が変わった。記事をたたみながら、穂香は続ける。
「知らないわけがないんです。昨日、一日使って各所に確認してきました。お二人は同じ大学の出身で、和香子さん――確か林野さんという苗字でしたね。あなたは相模さんとお付き合いされていたことも聞きました。孝明さんはサークルの後輩だったとか。当時の顧問の先生が懐かしがっていました」