言われた通り、自分の部屋からウサギのぬいぐるみと手紙を持ってきて渡すと、敷島は手紙とノートを広げて言う。
「秦野孝明の話だと、思い悩んでいる様子があった時期が伊勢美月の話と重なる。もしかしたら秘密に気付いた、または状況が動いた時期だったんじゃないか?」
「時期……失踪の二週間前ってこと?」
「そう。秦野に対しての不安を伊勢に話していたことが以前からあったとしても、聞き手が喧嘩を連想するほどではなかったはずだ。……ちょうど思い悩む姿が見受けられた時期に、爆弾が落ちてきたとしたら?」
 爆弾――そう言われて穂香は鞄に入れっぱなしにしていたメモ帳を開く。
 昨日、三人の話で共通しているのは、紗栄子の変化を感じ取ったのは失踪する一、二週間前だったことだ。その間に連絡を取ったのは会社の人間以外いないという。
 ならば、敷島の言う爆弾とは何か?孝明の変化を感じ取ったその時期に、紗栄子は誰と接した? どこに行っていた?
 ふと、脳裏にある光景がよぎった。雨が強い夜、小屋に一人きり、顔がわからない人物。――実際に見た光景ではない。それでも、爆弾と呼ぶにはふさわしいと思ってしまった。
「お前が見る灰色の夢だよ、藤宮。お前が秦野紗栄子に相談した灰色の夢が、もし仮に本当にあったことだとしたら――答えがここに入ってる」
 敷島はそう言って、ウサギのぬいぐるみを持ち上げた。
「ずっと気になってたんだ。ぬいぐるみに入っていた手紙にある『大事に持っていてね』――まるで子どもに言い聞かせているみたいだと思わないか。誕生日の一週間前に送ってくるところとか、天然にもほどがある」
「それは昔からで……」
「そこまで間違えるのは異常だろうけど、今回がわざとだとしたら?」
 すると、敷島はウサギのぬいぐるみを掴んで腕、足、顔と、慎重に何かを探すように触れていく。
「いくら昔からだったとしても、間違えずに覚えておく方法はいくらでもあるだろ。現にノートには『誕生日の一週間前』としっかり書き残されている。だから、わざとショートケーキのいちごの日に届くように送ったんじゃないかって……あった」
 ぬいぐるみの背中に触れたところで手が止まる。敷島はハサミを取ると、躊躇いもなくハサミで切り始めた。慎重に開いてみると、そこにはプラスチックの小さなケースが出てきた。中にはSDカードが入っている。
「……覚悟はいいか?」
 神妙な顔つきの敷島に、穂香は小さく頷いた。