穂香が姉の失踪に関わっているであろう三人から話を聞いた二日後の昼過ぎ、珍しく鈴乃が購買に行くという。
毎日のように弁当を持ってきている彼女だが、今日ばかりは寝坊して作れなかったらしい。
「鈴乃が遅刻しそうになるの、珍しいね。バイト大変?」
「うーん。そうでもないんだけど、まだ管理が難しいかな」
「管理? そもそも、なんのバイトしているの?」
「業務用スーパー。そこでペットの世話をしているの」
「へぇ……え?」
(式場の近くにスーパーなんてあったっけ?)
鈴乃は一昨日――穂香が式場で和香子に話を聞きに行った日――、バイト終わりに式場の前を通ったと言っていた。
穂香の記憶では、あの周辺は立地の関係で業務用スーパーなどと大きな店を構えるほどの広さはないし、道中にそのような建物を見かけた覚えがない。ただ、あの日は寒く、車窓が結露して曇っていた。穂香が拭ったタイミングのときはまだスーパーに辿り着いていなかったのかもしれない。
それを聞いたところで、紗栄子の失踪に繋がる手がかりにはならない。「そっか」と軽く流すことにした。
鈴乃とともに購買室に向かうと、昼食を買い求めに来た生徒と先生で溢れかえっていた。特に焼きそばパンは大人気で、すぐに売り切れてしまう。
「うわー……なにも残ってなさそう」
「でもたまに、ストックしているときがあるよね」
「え? そうなの?」
「うん。少し前に運ぶのを手伝ったことがあるよ。その時に配置とかこっそり教えてもらった」
「さすが穂香……じゃあまだいけるかも! 穂香は何か買う?」
「ううん。ここで待ってるよ。お弁当あるし」
「そう、それじゃ行ってくるね!」
購買室に続く列に並ぶ鈴乃を見送って、穂香は少し離れた廊下の端で待つことにした。ポケットからスマホを出して、敷島とのトーク画面を表示する。
【今日、学校来てる?】
手早く打って送信すると、すぐに既読がついた。
【いる。だりぃ】
(平常運転だなぁ)
文字からでも気怠そうな声が聞こえてくる気がした。
気まずい空気になってしまったこともあって、同じ校内にいたにも関わらず遭遇しなかったのだ。唯一授業が被る選択授業もしばらくないこともあって、連絡するのも躊躇っていたが、このまま気まずいままにはしたくなかった。
彼らしいと思う反面、返事が早いとは思っていなかったこともあって焦る。なんとなく連絡してしまったこともあって、どう続けるか何も考えていなかった。
「あのー……すみません」
「え?」
突然声をかけられて顔を上げると、見知らぬ男性が立っていた。緩いパーマがかかった黒髪が特徴的で、カメラバッグを斜めに背負い、首には「来校者」のカードがかけられている。似合わない指輪がいくつもはめたその男性はポケットから名刺を取り出すと、穂香に差し出した。
「半年ぶりですね、藤宮穂香さん。ジャーナリストの森崎です」
にっこりと歪ませた口に、穂香はぞっとした。
毎日のように弁当を持ってきている彼女だが、今日ばかりは寝坊して作れなかったらしい。
「鈴乃が遅刻しそうになるの、珍しいね。バイト大変?」
「うーん。そうでもないんだけど、まだ管理が難しいかな」
「管理? そもそも、なんのバイトしているの?」
「業務用スーパー。そこでペットの世話をしているの」
「へぇ……え?」
(式場の近くにスーパーなんてあったっけ?)
鈴乃は一昨日――穂香が式場で和香子に話を聞きに行った日――、バイト終わりに式場の前を通ったと言っていた。
穂香の記憶では、あの周辺は立地の関係で業務用スーパーなどと大きな店を構えるほどの広さはないし、道中にそのような建物を見かけた覚えがない。ただ、あの日は寒く、車窓が結露して曇っていた。穂香が拭ったタイミングのときはまだスーパーに辿り着いていなかったのかもしれない。
それを聞いたところで、紗栄子の失踪に繋がる手がかりにはならない。「そっか」と軽く流すことにした。
鈴乃とともに購買室に向かうと、昼食を買い求めに来た生徒と先生で溢れかえっていた。特に焼きそばパンは大人気で、すぐに売り切れてしまう。
「うわー……なにも残ってなさそう」
「でもたまに、ストックしているときがあるよね」
「え? そうなの?」
「うん。少し前に運ぶのを手伝ったことがあるよ。その時に配置とかこっそり教えてもらった」
「さすが穂香……じゃあまだいけるかも! 穂香は何か買う?」
「ううん。ここで待ってるよ。お弁当あるし」
「そう、それじゃ行ってくるね!」
購買室に続く列に並ぶ鈴乃を見送って、穂香は少し離れた廊下の端で待つことにした。ポケットからスマホを出して、敷島とのトーク画面を表示する。
【今日、学校来てる?】
手早く打って送信すると、すぐに既読がついた。
【いる。だりぃ】
(平常運転だなぁ)
文字からでも気怠そうな声が聞こえてくる気がした。
気まずい空気になってしまったこともあって、同じ校内にいたにも関わらず遭遇しなかったのだ。唯一授業が被る選択授業もしばらくないこともあって、連絡するのも躊躇っていたが、このまま気まずいままにはしたくなかった。
彼らしいと思う反面、返事が早いとは思っていなかったこともあって焦る。なんとなく連絡してしまったこともあって、どう続けるか何も考えていなかった。
「あのー……すみません」
「え?」
突然声をかけられて顔を上げると、見知らぬ男性が立っていた。緩いパーマがかかった黒髪が特徴的で、カメラバッグを斜めに背負い、首には「来校者」のカードがかけられている。似合わない指輪がいくつもはめたその男性はポケットから名刺を取り出すと、穂香に差し出した。
「半年ぶりですね、藤宮穂香さん。ジャーナリストの森崎です」
にっこりと歪ませた口に、穂香はぞっとした。