「なんかどれもパッとしねぇな」
 敷島はそう言って、穂香が書きだしたメモを見ながら、揚げたてのポテトを口に頬張った。
 式場を後にし、穂香の自宅のある最寄り駅まで戻る頃、辺りは暗くなっていた。点灯したばかりの街路灯が揺れ、足早に帰路に着く人々が増えていく。
 遅くなると両親が心配するから、と敷島は自宅へ送ろうとしたものの、穂香は忘れないうちに聞き込みしたことをまとめておきたいと言って、駅近くのファーストフード店に入った。今日一日で食べ歩きをしているような感覚に陥るが、飲み物ばかりで胃に何か入れたい気分だった。昼にもフライドポテトを食べたのに、敷島は構わず大きいサイズを注文する。
「敷島くんって、やっぱり食べる量が多いよね?」
「この身長で小食だったらもたないだろ。食べたかったらつまんで」
「ううん。大丈夫」
 ひとまず書き終えたメモを二人が見える位置に置いて、穂香は別で注文したアップルパイを頬張る。中からとろっとあふれるリンゴのコンポートの甘酸っぱさと、シナモンの香りが口の中いっぱいに広がった。
「つか、家に帰ってまとめたほうが余計なものがなくていいんじゃねぇの?」
「私が落ち着かないよ。それに敷島くんと私が感じた印象は別物なんだから、私の思い込みだけで決めつけたくないの」
「印象ねぇ……じゃあ、それっぽくするか」
「それっぽく?」
「捜査会議的な。お前は三人の話を聞いてどう思った?」
 敷島はポテトをつまんだまま穂香に向ける。食べかけのアップルパイを持ったまま、穂香は中央に置いたメモを見る。
「……失踪する一、二週間前に、お姉ちゃんが他の人が見てもわかるほど悩んでいた何かが起きたんだと思う」
「でもお前は失踪三日前でも気付かなかった」
「メッセージはスマホの画面上でやり取りするんだよ? いくらでも嘘はつけるもの」
「そういえば、最後に送ったメッセージの内容は?」
 スマホを操作して、紗栄子とのメッセージ履歴を表示して敷島に向ける。
 先に連絡を入れたのは穂香で、実家に紗栄子宛のA4サイズの封筒が届いたため確認したところ、本人が間違えて実家の住所を書いてしまったらしい。転送しようか尋ねると、「急ぎのものじゃないから、今度寄ったときに取りに行く。机のラックに差し込んでおいて」とだけ告げられた。――それが六月五日。それからは穂香からの一方的なメッセージが送信されていた。
電話とは異なり、文字だけで状況を把握できるわけがない。送る側はいくらでも偽ることが可能だ。相手に顔も声も知らせる必要など、文字にしなければ伝わらないのだから。
「顔が見えない、声も聞こえない――ネットやSNSみたいな、他人同士が集まる場では当たり前だ。だから正直、藤宮とやり取りしていた相手が姉さんじゃなくて、秦野孝明の可能性だってある」
「敷島くんは、孝明さんが怪しいと思っているの?」
「離婚届を用意するほどのことをしでかしたって考えたら、一番怪しいと思うけど。しいて言うなら、伊勢美月は白かな」
「どうして? ……いや、どうしてって言い方もおかしいけど」
「妊婦が大変な時期に、空気が読めて気遣いのできる奴が匿ってもらおうとは思わないだろ。やむを得ない状況だとしても、長居はしないな」
「……待って、今妊婦って言った?」
「言った。気付いてなかったのか」