昼食を終えて美月と別れた二人は、駅から出発する巡回バスに乗り込んだ。
相変わらず二人掛けの席に分かれて座ろうとする穂香を、敷島は半ば強引に自分の右側に座らせる。どの位置になっても頑なに右側に座らせようとする彼に、なぜかと問うのも諦めていた。
「藤宮は式場に行ったことあんの?」
「一度だけ。ケーキバイキングのイベントがあって、鈴乃が招待してくれたんだ」
「すずの?」
「私の友達。その子のお母さんがイベント担当で、特別に席を用意してくれたの」
「だからお前が式場を紹介したってことか」
納得したように見ていた画面から穂香に目線を移す。少し前まで美月と話してすっきりした様子だったのが、また浮かない顔をしている。
「式が中止じゃなくて延期だったこと、引っかかっているのか?」
「……敷島くんは、私の頭の中でも見えているの?」
「顔に書いてあんだよ。確かに、直前のキャンセル料ってバカにならないもんな」
画面をスクロールして出てきたプラン表にざっと目を通すが、決して簡単にキャンセルができるような金額ではない。式直前だったこともあり、孝明には莫大な額が提示されたはずだが、延期の処置だけで済んだとは考えにくい。
「もしそうしてくれたとしたら、プランナーさんが提案してくれたのかも」
「……なるほど、そういうことか」
ハッと顔を上げた敷島に、穂香は小さく頷く。
プランナーだからとはいえ、できる範囲のことは限られているが、それが娘の友人の姉ならば親切心が働いてもおかしくはない。なにより、担当したのはその式場で腕利きだと有名なプランナーだと聞く。
「式場を説得してくれた可能性は十分あるよな」
敷島が呟いた言葉に、穂香は窓を見る。
白く結露した窓を拭うと、黒い柵で囲まれた白い建物が見えてきた。一度だけ訪れたことのある式場は、あの頃と何も変わっていない。
バス停を降りて少し歩くと、式場の入り口でパンツスーツ姿の女性が立っていた。ショートカットにきりっとした目元が協調されたメイク。式場のスタッフだろうか、誰かを探すような素振りを見せる。すると、穂香たちに気付いて近づいてきた。
「穂香ちゃん、いらっしゃい。迷わなかった?」
「はい、ありがとうございます。お忙しいときに押しかけしまってごめんなさい」
「いいえ。ちょうど時間が空けられてよかったわ。……そちらは?」
「友人です。一緒にいいですか?」
穂香は言う前に、敷島が前に出て食い気味に入ってきた。その勢いに一瞬驚いた表情をするも、すぐに女性は微笑んで続けた。
「もちろんよ。中へどうぞ。応接室を開けているから、そちらでお話しましょうか」
女性――改め、西川和香子はこの式場で人気のウェディングプランナーだ。真摯に向き合う姿はまさにプランナーの鏡だと言われており、穂香の親友、鈴乃の母親でもある。
「ごめんなさいね、今日は鈴乃、別のバイトでいないのよ」
「そういえば最近多いですね。学校終わりもすぐ帰っちゃうし……」
「働き者なのはいいんだけどもね。親としては心配ね」
「でも鈴乃は和香子さんこと、すごく尊敬していますから。早く隣に並びたいっていつも言っていますよ」
以前から和香子の仕事に対する真摯な姿勢に憧れ、自分も将来はブライダル関係の職に就きたいと、胸を張って教えてくれたことがあった。それもあってか、学校や別のアルバイトが休みの日は式場でアシスタントとして働いている。和香子はその話を聞いて、嬉しそうに頬を緩めた。
相変わらず二人掛けの席に分かれて座ろうとする穂香を、敷島は半ば強引に自分の右側に座らせる。どの位置になっても頑なに右側に座らせようとする彼に、なぜかと問うのも諦めていた。
「藤宮は式場に行ったことあんの?」
「一度だけ。ケーキバイキングのイベントがあって、鈴乃が招待してくれたんだ」
「すずの?」
「私の友達。その子のお母さんがイベント担当で、特別に席を用意してくれたの」
「だからお前が式場を紹介したってことか」
納得したように見ていた画面から穂香に目線を移す。少し前まで美月と話してすっきりした様子だったのが、また浮かない顔をしている。
「式が中止じゃなくて延期だったこと、引っかかっているのか?」
「……敷島くんは、私の頭の中でも見えているの?」
「顔に書いてあんだよ。確かに、直前のキャンセル料ってバカにならないもんな」
画面をスクロールして出てきたプラン表にざっと目を通すが、決して簡単にキャンセルができるような金額ではない。式直前だったこともあり、孝明には莫大な額が提示されたはずだが、延期の処置だけで済んだとは考えにくい。
「もしそうしてくれたとしたら、プランナーさんが提案してくれたのかも」
「……なるほど、そういうことか」
ハッと顔を上げた敷島に、穂香は小さく頷く。
プランナーだからとはいえ、できる範囲のことは限られているが、それが娘の友人の姉ならば親切心が働いてもおかしくはない。なにより、担当したのはその式場で腕利きだと有名なプランナーだと聞く。
「式場を説得してくれた可能性は十分あるよな」
敷島が呟いた言葉に、穂香は窓を見る。
白く結露した窓を拭うと、黒い柵で囲まれた白い建物が見えてきた。一度だけ訪れたことのある式場は、あの頃と何も変わっていない。
バス停を降りて少し歩くと、式場の入り口でパンツスーツ姿の女性が立っていた。ショートカットにきりっとした目元が協調されたメイク。式場のスタッフだろうか、誰かを探すような素振りを見せる。すると、穂香たちに気付いて近づいてきた。
「穂香ちゃん、いらっしゃい。迷わなかった?」
「はい、ありがとうございます。お忙しいときに押しかけしまってごめんなさい」
「いいえ。ちょうど時間が空けられてよかったわ。……そちらは?」
「友人です。一緒にいいですか?」
穂香は言う前に、敷島が前に出て食い気味に入ってきた。その勢いに一瞬驚いた表情をするも、すぐに女性は微笑んで続けた。
「もちろんよ。中へどうぞ。応接室を開けているから、そちらでお話しましょうか」
女性――改め、西川和香子はこの式場で人気のウェディングプランナーだ。真摯に向き合う姿はまさにプランナーの鏡だと言われており、穂香の親友、鈴乃の母親でもある。
「ごめんなさいね、今日は鈴乃、別のバイトでいないのよ」
「そういえば最近多いですね。学校終わりもすぐ帰っちゃうし……」
「働き者なのはいいんだけどもね。親としては心配ね」
「でも鈴乃は和香子さんこと、すごく尊敬していますから。早く隣に並びたいっていつも言っていますよ」
以前から和香子の仕事に対する真摯な姿勢に憧れ、自分も将来はブライダル関係の職に就きたいと、胸を張って教えてくれたことがあった。それもあってか、学校や別のアルバイトが休みの日は式場でアシスタントとして働いている。和香子はその話を聞いて、嬉しそうに頬を緩めた。