「結婚式の招待状って、三か月前には送って出席確認を取るようにするんだけど、紗栄子がいなくなった後、式場から電話で延期の連絡が回ってきたの」
「延期? 待って、延期なの?」
「ええ。延長料金って結構かかるものだから驚いて。私はてっきり、ご両親が出しているんだと思っていたんだけど……穂香ちゃん、知らなかった?」
「……そんな余裕、うちにはありません」
紗栄子が失踪した時期は、両親は抜け殻のように何も手を付けられない状況だった。式のことなど考えている余裕はなく、孝明が対応するからと任せっぱなしになっていた。秦野家に行ったときに聞くべきだったと痛感する。
(普通に考えたら真っ先に考えるのに、結婚式の費用とか絶対忘れないのに!)
「でも延期にしたってことは孝明さん、紗栄子のことずっと待っているってことだよね。半年も経っているのに……いっぱいお金かかってるだろうな」
「多分、負担を減らせるサービスを組み込んでいたんだと思います」
「ああ、確かあったような……って、詳しいわね」
招待状から顔を上げて、穂香は言う。
「この式場、私が教えたんです。友達のお母さんがウェディングプランナーだから、多分変わっていなければ今も……」
「じゃあ――」
「じゃあ今度は式場だな」
途端に視界が暗くなったかと思えば、声が聞こえて振り返った。コンビニから戻ってきた敷島だ。
「いつの間に……」
「今戻ってきたところ。式場って聞こえたから、関係者がいると思ったんだけど、行くのか?」
「そうだね……。コンビニはどうだった?」
「お前の姉さんの写真見せたら、よく仕事終わりに寄る人っていう認識はされていた。でも半年前にいた店員は異動だったり就職で辞めたりして、当時のことを覚えている人はいなかった。ダメ元で防犯カメラを見せてくれって頼んだけど、さすがに怒られたな」
「それはそうだよ……でもありがとう」
スマホの画面で時間を確認すると、昼時を過ぎていたところだった。
「穂香ちゃんが担当プランナーさんと知り合いなら、連絡してから行くべきね。その間にお昼でも食べたら? お姉さんが奢ってあげよう! なんでも頼んでいいよ」
「マジっすか」
「もちろん。ホットレモネードのお礼」
そう言って美月は敷島にメニュー表を差し出す。軽食がメインのようだが、お勧めのクラブハウスサンドはカリカリベーコンと野菜たっぷりでボリューム満点と、メニュー表の半分を使って大きく載っていた。
注文して待っている間、穂香は席を立って式場に電話を掛ける。確認すると、担当プランナーは二時間後なら時間が作れるという。昼食をゆっくり食べて向かえばちょうど良い時間だ。無理を承知でお願いすると、快く了承してくれた。
席に戻ると、自分の手のひらより大きなクラブハウスサンドが鎮座しており、穂香を待ち構えていた。添えられている細切りポテトも揚げたてのようで、香ばしい匂いが漂っている。
「あ、穂香ちゃん、もう来てるよ」
「ありがとうございます。……敷島くん、その量で足りる?」
「お前は俺を掃除機かなにかだと思ってんの?」
「掃除機って……」
そんなことはないと苦笑いするが、穂香の頭には、敷島が鍋の雑炊をがっついて口の中を火傷したときの光景が浮かんだ。食に貪欲というわけではないらしい。
「腹が減ってはなんとやら。午後もたくさん移動するんだから、しっかり食べておきなさいよ」
二人の会話を聞きながら、美月はどこか羨ましそうに笑った。
◇
【コンビニでの聞き込み】
・紗栄子の顔は認知していたが、半年前にぬいぐるみを受け取ってタイムカプセル便を利用していたかは不明。
【伊勢美月の証言】
・連絡を取ったのは失踪の三日前。電話で数分話した程度だが、特に変わった様子はなかった。
・結婚式が中止ではなく延期だったことに驚く。
・電話越しだったが、マリッジブルー気味に感じる。孝明と喧嘩したのでは?
「延期? 待って、延期なの?」
「ええ。延長料金って結構かかるものだから驚いて。私はてっきり、ご両親が出しているんだと思っていたんだけど……穂香ちゃん、知らなかった?」
「……そんな余裕、うちにはありません」
紗栄子が失踪した時期は、両親は抜け殻のように何も手を付けられない状況だった。式のことなど考えている余裕はなく、孝明が対応するからと任せっぱなしになっていた。秦野家に行ったときに聞くべきだったと痛感する。
(普通に考えたら真っ先に考えるのに、結婚式の費用とか絶対忘れないのに!)
「でも延期にしたってことは孝明さん、紗栄子のことずっと待っているってことだよね。半年も経っているのに……いっぱいお金かかってるだろうな」
「多分、負担を減らせるサービスを組み込んでいたんだと思います」
「ああ、確かあったような……って、詳しいわね」
招待状から顔を上げて、穂香は言う。
「この式場、私が教えたんです。友達のお母さんがウェディングプランナーだから、多分変わっていなければ今も……」
「じゃあ――」
「じゃあ今度は式場だな」
途端に視界が暗くなったかと思えば、声が聞こえて振り返った。コンビニから戻ってきた敷島だ。
「いつの間に……」
「今戻ってきたところ。式場って聞こえたから、関係者がいると思ったんだけど、行くのか?」
「そうだね……。コンビニはどうだった?」
「お前の姉さんの写真見せたら、よく仕事終わりに寄る人っていう認識はされていた。でも半年前にいた店員は異動だったり就職で辞めたりして、当時のことを覚えている人はいなかった。ダメ元で防犯カメラを見せてくれって頼んだけど、さすがに怒られたな」
「それはそうだよ……でもありがとう」
スマホの画面で時間を確認すると、昼時を過ぎていたところだった。
「穂香ちゃんが担当プランナーさんと知り合いなら、連絡してから行くべきね。その間にお昼でも食べたら? お姉さんが奢ってあげよう! なんでも頼んでいいよ」
「マジっすか」
「もちろん。ホットレモネードのお礼」
そう言って美月は敷島にメニュー表を差し出す。軽食がメインのようだが、お勧めのクラブハウスサンドはカリカリベーコンと野菜たっぷりでボリューム満点と、メニュー表の半分を使って大きく載っていた。
注文して待っている間、穂香は席を立って式場に電話を掛ける。確認すると、担当プランナーは二時間後なら時間が作れるという。昼食をゆっくり食べて向かえばちょうど良い時間だ。無理を承知でお願いすると、快く了承してくれた。
席に戻ると、自分の手のひらより大きなクラブハウスサンドが鎮座しており、穂香を待ち構えていた。添えられている細切りポテトも揚げたてのようで、香ばしい匂いが漂っている。
「あ、穂香ちゃん、もう来てるよ」
「ありがとうございます。……敷島くん、その量で足りる?」
「お前は俺を掃除機かなにかだと思ってんの?」
「掃除機って……」
そんなことはないと苦笑いするが、穂香の頭には、敷島が鍋の雑炊をがっついて口の中を火傷したときの光景が浮かんだ。食に貪欲というわけではないらしい。
「腹が減ってはなんとやら。午後もたくさん移動するんだから、しっかり食べておきなさいよ」
二人の会話を聞きながら、美月はどこか羨ましそうに笑った。
◇
【コンビニでの聞き込み】
・紗栄子の顔は認知していたが、半年前にぬいぐるみを受け取ってタイムカプセル便を利用していたかは不明。
【伊勢美月の証言】
・連絡を取ったのは失踪の三日前。電話で数分話した程度だが、特に変わった様子はなかった。
・結婚式が中止ではなく延期だったことに驚く。
・電話越しだったが、マリッジブルー気味に感じる。孝明と喧嘩したのでは?