敷島が未だ真っ赤な顔の穂香を横目で見る。ハッと現実に戻されて、慌てて穂香は孝明と向き合った。
「じ、実は昨日、お姉ちゃんから荷物が届いたんです」
「……どういうこと? 紗栄子から? 彼女は今どこに⁉」
ソファから立ち上がって動揺する孝明に、穂香は荷物がタイムカプセル郵便という特殊なサービスで半年前に依頼した可能性があることを伝えたうえで、自分は失踪した理由を探していることを伝えた。孝明はしばらく黙っていたが、温くなったコーヒーを一口飲んだ。
「……事情はわかった。穂香ちゃんが言うなら、届いた手紙や伝票を書いたのは紗栄子で間違いないだろう。そういえば、パソコンでウサギのぬいぐるみを調べていたような気がする。本人にははぐらかされたけど」
「もしかして、これですか?」
リュックからぬいぐるみを取り出すと、「ああ、それだ」と顔をしかめた。
「ウサギのぬいぐるみって珍しかったからよく覚えているよ。もしかしたらパソコンやスマホに検索履歴が残っているかもしれないけど、今は警察が管理しているから確認のしようがないな……だけど、それを知ってどうするの?」
マグカップを置いた手が微かに震えている。孝明はどこか遠くを見ながら続ける。
「紗栄子と結婚してから、家に帰るのが楽しみだった。残業で遅くなっても、紗栄子はいつも玄関まで出迎えてくれた。これからもずっと続くであろう日常の幸せを、俺は信じて疑っていなかったんだ。……だから今日も、また出掛けて夜になってこの家に帰ってきたら、紗栄子が待っているんじゃないかって、期待している自分がいることが悔しくてたまらない……っ」
「孝明さん……」
「紗栄子はもう……この世にいないかもしれない。残酷な結果が待ち受けているかもしれない。それでも君たちは真実を知りたいか? 君たちに協力したら紗栄子が帰ってくるかもわからないのに? そんな現実を、君たちに突きつけるようなことを、俺はしたくないよ」
厳しい問いかけに、穂香は口を開くのを躊躇った。
闇雲に探しても何も見つからないことも、自分が無力であることも十分承知している。だから正直に「わからない」と断言するつもりだったが、いざ孝明を目の前にすると、不安で押しつぶされそうになる。
「すでに死んでいる理由を探すために、ここに来たんじゃない」
気まずい空気の中、口を開いたのは敷島だった。
「藤宮は、捜査の進捗を教えてもらえないどころか、チラシ配りもさせてもらえていなかった。そんな奴が一番慕っていた姉の身を案じることの何が悪い? アンタが藤宮を無理やり河川敷に連れて行ったのと同じじゃん。アンタだって、諦めきれなかったから河川敷に行ったんだろ。自分で確かめないと気が済まなかったから」
「それは……」
「確かに俺たちは警察に比べたら情報収集はできる範囲が限られているし、足元にも及ばない。チラシを配っても情報は入ってこない。……それでも、覚悟したうえでここに来た藤宮だから、こいつの気が済むまで好きにやらせてやってください」
「しかし……」
「孝明さん、お願いします! 危ないことはしないから!」
「危険だとわかったらその時点でやめます。俺が絶対止めます。絶対、彼女を守ります。だから……」
二人の説得に眉をひそめて怪訝そうな顔で見ていた孝明だったが、一向に引く様子がないと察したのか、大きく溜息をついた。いくら脅しても自分がしたことを実例として出されてしまっては、何も言えまい。
「じ、実は昨日、お姉ちゃんから荷物が届いたんです」
「……どういうこと? 紗栄子から? 彼女は今どこに⁉」
ソファから立ち上がって動揺する孝明に、穂香は荷物がタイムカプセル郵便という特殊なサービスで半年前に依頼した可能性があることを伝えたうえで、自分は失踪した理由を探していることを伝えた。孝明はしばらく黙っていたが、温くなったコーヒーを一口飲んだ。
「……事情はわかった。穂香ちゃんが言うなら、届いた手紙や伝票を書いたのは紗栄子で間違いないだろう。そういえば、パソコンでウサギのぬいぐるみを調べていたような気がする。本人にははぐらかされたけど」
「もしかして、これですか?」
リュックからぬいぐるみを取り出すと、「ああ、それだ」と顔をしかめた。
「ウサギのぬいぐるみって珍しかったからよく覚えているよ。もしかしたらパソコンやスマホに検索履歴が残っているかもしれないけど、今は警察が管理しているから確認のしようがないな……だけど、それを知ってどうするの?」
マグカップを置いた手が微かに震えている。孝明はどこか遠くを見ながら続ける。
「紗栄子と結婚してから、家に帰るのが楽しみだった。残業で遅くなっても、紗栄子はいつも玄関まで出迎えてくれた。これからもずっと続くであろう日常の幸せを、俺は信じて疑っていなかったんだ。……だから今日も、また出掛けて夜になってこの家に帰ってきたら、紗栄子が待っているんじゃないかって、期待している自分がいることが悔しくてたまらない……っ」
「孝明さん……」
「紗栄子はもう……この世にいないかもしれない。残酷な結果が待ち受けているかもしれない。それでも君たちは真実を知りたいか? 君たちに協力したら紗栄子が帰ってくるかもわからないのに? そんな現実を、君たちに突きつけるようなことを、俺はしたくないよ」
厳しい問いかけに、穂香は口を開くのを躊躇った。
闇雲に探しても何も見つからないことも、自分が無力であることも十分承知している。だから正直に「わからない」と断言するつもりだったが、いざ孝明を目の前にすると、不安で押しつぶされそうになる。
「すでに死んでいる理由を探すために、ここに来たんじゃない」
気まずい空気の中、口を開いたのは敷島だった。
「藤宮は、捜査の進捗を教えてもらえないどころか、チラシ配りもさせてもらえていなかった。そんな奴が一番慕っていた姉の身を案じることの何が悪い? アンタが藤宮を無理やり河川敷に連れて行ったのと同じじゃん。アンタだって、諦めきれなかったから河川敷に行ったんだろ。自分で確かめないと気が済まなかったから」
「それは……」
「確かに俺たちは警察に比べたら情報収集はできる範囲が限られているし、足元にも及ばない。チラシを配っても情報は入ってこない。……それでも、覚悟したうえでここに来た藤宮だから、こいつの気が済むまで好きにやらせてやってください」
「しかし……」
「孝明さん、お願いします! 危ないことはしないから!」
「危険だとわかったらその時点でやめます。俺が絶対止めます。絶対、彼女を守ります。だから……」
二人の説得に眉をひそめて怪訝そうな顔で見ていた孝明だったが、一向に引く様子がないと察したのか、大きく溜息をついた。いくら脅しても自分がしたことを実例として出されてしまっては、何も言えまい。