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「姉がなぜ失踪したのか、その理由を知りたい」
 昨夜、穂香が震える声を抑えながら敷島にそう告げた。
 ジャケットとスニーカーが河川敷に流れ着いたことはともかく、一週間早い誕生日プレゼントを送りつけてくるのはあまりにも姉らしい行動で、もし伝票に紗栄子の名前が書かれていれば、両親も「紗栄子がやりそう」だとしか思わなかったかもしれない。
 だからこそ穂香は違和感を覚えた。わざわざタイムカプセル便を使う必要なんてない。実家に顔を出す頻度は減ったとはいえ、両親や孝明と結託して自宅以外の場所に隠すことだってできたはずだ。
 ならば、わざわざタイムカプセル便を使わなければならなかった理由とはなにか?
「お姉ちゃんがここまで手をまわしたのが失踪のためだったと、私には到底思えない」
 拙い言葉で自分の考えを伝えると、電話越しからは唸る声が聞こえてきた。
『藤宮の言い分は分かった。その手紙が本人のものだって証明はできるのか?』
「お姉ちゃんは昔から、罫線があってもどんどん右下がりに書く癖があるの。中学の頃に手紙のやり取りしていたのがあって、重ねて透かして確認したらほぼ同じだった。だから手配したのはお姉ちゃんで間違いないと思う」
『お前は筆跡の鑑定師か』
「でもこれだけじゃ何もわからないよ。情報集めをするとしたら、そのサービスをしている郵便局か企業を探してまわるしか……」
『宅配便なら最近かもしれねぇけど、最長十年保管が可能で、指定した日付に届くサービスなんて、受付が覚えているかも怪しい』
「だよね……」
『……なぁ、荷物は全部家に置きっぱなしだったんだよな?』
「う、うん。財布もスマホも全部あったって聞いているけど……」
『だったら転送した時の伝票とか、下調べしたメモがどこかに残ってる可能性はあるよな』
 真面目で几帳面な性格の姉のことだ。幼少の頃に染みついた穂香の誕生日を間違えないように、手帳やカレンダー、スマホにも書き込んでいるほどの徹底ぶりなら、何かしら手掛かりが残っているかもしれない。
 すると、敷島がとある提案をした。
『お前の姉さんの旦那さん……秦野さんだっけ。その人に家に入れてもらおう。姉に貸したものを取りに来たとか言えば、すんなり入れてくれるんじゃねぇかな。ついでに治療費も返すんだろ?』
「……敷島くん、私の荷物に監視カメラでも紛れ込ませていたりする?」
『アホか。とりあえずいつ行けるか確認取ってくれ。俺も行く』
 ――それからの行動は早かった。
 まず孝明に予定を聞いて自宅に入れてもらうよう約束を取りつけ、敷島に再び連絡。穂香自身の体調優先を最低条件として、駅で待ち合わせて一緒に行くことになった。
 まさか短時間で計画が進むとは思っていなかった敷島は「お前の行動力には心底呆れた」と彼なりの最大級の褒め言葉を投げた。