翌日、すっかり体調も良くなった穂香は、いつも通りに朝早く目が覚めた。
 日曜日とはいえ、決まった時間に起きて朝食をとるのが藤宮家の決まりだ。学校は休みだが、休日出勤の父とパートが入っている母に合わせて準備をする。
 慣れた手つきで茄子の味噌汁を作り、昨晩余分に作っておいた筑前煮を温める。炊き立ての白米を茶碗によそおうとすると、リビングに両親が揃って入ってきた。二人とも寝間着のままで、目元のクマはさらに濃く見える。
「おはよう、穂香。……いつもありがとうね」
「おはよう。朝ご飯だけはちゃんと食べてほしいから、大丈夫だよ。もうすぐできるから座って」
 言われた通りに二人は食卓につくと、口を固く結んだまま顔を伏せる。「食べられるだけでいいから」と、少なめに盛りつけた三人分の食事を並べられた。テレビを付けることも、明るい会話も聞こえてくることなく、小さく「いただきます」と呟いた両親の声が一段と大きく聞こえる。
食べ進めていると、父は箸を止めて穂香に尋ねた。
「穂香、昨日の彼だが……」
「彼って……敷島くんのこと?」
「ああ、いつから知り合いなんだ?」
「最近だよ。ずっとクラスが違っていたから一度も話したことがなかったんだけど、後期の選択科目で一緒になったの。それがどうかした?」
「……いや、何でもない。俺の気のせいだ」
 父は濁すと、箸を筑前煮に伸ばして食べ始める。
気になって穂香が尋ねようとすると、母が「そういえば」と遮った。
「今日は穂香、何か予定があるの?」
「うん。ちょっと用事があるから出掛けてくるよ。孝明さんのところにも行ってみようと思う。昨日連絡したら、家にいるって」
「そう……そしたら、孝明くんに昨日の治療費を返しておいてくれるかしら。本当は私たちが行くべきなんだけど……」
「大丈夫。孝明さんだって、お母さんもお父さんのこともわかってくれているよ。それに今回は私が倒れて迷惑かけたから、私が行って謝りたい」
「穂香……」
「ほら、早く食べないと二人とも仕事に遅れちゃうよ」
 不安そうに顔を歪めた両親を心配させないように、穂香はまた明るく振る舞った。