姉の筆記で書かれた手紙にぬいぐるみ――姉が今も生きている証明ではないかと一筋の光が見える。しかし、裏に描かれたマークを検索すれば、その光はあっという間に消え去った。
 包みの裏に書かれていたカプセルのマークは、タイムカプセル郵便というものだった。ある企業のサービスで、未来の自分や相手に手紙や物を送れるといったものだ。紗栄子が高校の卒業間際に、友人らとこのサービスを使って担任の先生に手紙を出そうとしていたのを見かけたことがある。
 届けられたこれは、わざわざ誕生日の一週間前――十五日に送られるように設定されている。
 つまり、これは紗栄子が半年前、事前に十二月十五日に届くよう設定された、穂香に宛てた誕生日プレゼントだ。
「……だから早いよ、お姉ちゃん……っ!」
 紗栄子は最初から、失踪することを決めていたのかもしれない。
 自宅に財布やスマホといった、どこかで確認ができるものをすべて置いていったことや、事前にプレゼントを半年後に届くように手配されていたことを考えると、何かがきっかけで日常から離れることを選んだようにしか思えなかった。
 それは穂香が、今でも彼女が生きていると信じているが故のエゴだろうし、夢の話をした直後に失踪したことを考えて自分に向けた非難だと感じているからだと思った。
 一緒に入れられていたウサギのぬいぐるみを取り上げると、真っ黒な瞳で穂香を見つめる。抱きかかえたまま静かに涙を流す姿が映ると、穂香はそっと目を閉じる。
 ――お前は、どうしたい?
 不意に、敷島に言われたことを思い出す。
 あの時は答えようとした寸前で友恵が入ってきて朝食になり、曖昧のまま終わってしまったが、今となっては何と答えようとしていたのかもわからない。
「……私の、したいこと」
 すると、充電中のスマホの通知音が鳴った。画面に表示された敷島の名前に、穂香は手を伸ばす。
【ちゃんと寝ろよ】
 たったその言葉だけで心が軽くなる。
(敷島くんは、いつも簡潔的で皮肉っぽいけど、何度も助けてくれた)
 どうしてそこまで助けようとしてくるのかを聞くのは、今の自分が尋ねる余裕も理由もない。
 穂香はぬいぐるみをぎゅっと抱きしめなおすと、敷島に電話をかける。
 ワンコールで出た敷島は、驚いた様子で『藤宮? どうした?』と聞いてきた。
「ごめんね、急に電話して。今大丈夫?」
『いいけど、何かあったのか?』
「……私、知りたい」
『え?』
 どうして姉が失踪したのか――穂香は真実が知りたかった。
 それが例え、最悪な結果を知ることになっても。
「我儘なのは自分でもわかってる。でも……お願い、協力してほしい」