河川敷で遺留品らしきものが見つかった――それを見て誰もが失望するなか、彼だけが生きている可能性を探しているような気がした。
 興味本位で言葉を並べているのならやめてほしいと、喉まで出かかっている言葉を押し込んで、敷島の次の言葉を待つ。
「俺は藤宮から聞いた情報で気になったことを挙げているだけ。今の俺が指摘した場所も、警察はすでに調べているはずだ」
「それはそうだろうけど……」
「所持品が流れてきただけで、本人は見つかってない。少しくらい希望論を語ったところで、バチは当たらないさ」
(希望論……確かにそうかもしれない)
 穂香の思っていることも、敷島が指摘した部分もすべて、情報から真逆の可能性を考えた推察に過ぎない。
「お前がこれ以上話したくないならもう言わない。でも考えが上手くまとまらなくて、気になることを口に出すことで整理できるのなら、俺はいくらでも聞くよ」
「…………」
 穂香は、敷島尚という人物が未だにわからない。つい最近まで話したこともない相手で、ただ席を交換しただけという浅い関わりだったはずだ。ここまで助けられる義理はない。不思議な人だとつくづく思う。
「お前は、どうしたい?」
「……私は――」
「お待たせー! ごめんなさいね、開けてくれるかしらー?」
 穂香が言いかけたその時、戸の向こうから友恵の声がした。
 敷島が立ち上がって戸を開くと、友恵がお盆に土鍋と二人分のお椀を乗せて入ってきた。両手が塞がったままではノックも難しく、声をかけることしかできなかったようだ。
「あら、もしかしてお話の途中だった?」
「いいよ。ちょうど腹減ったって話してたところだったんだ」
 敷島はさも当然に受け取って机を置く。
 土鍋の蓋を取れば湯気が上がり、たまごとささみの雑炊が現れた。飾り程度の青葱が散りばめられ、雑炊が艶やかで輝いて見える。香りが穂香の鼻をくすぐったのか、小さく腹が鳴ったのが聞こえた。敷島は慣れた手つきでお椀によそい、レンゲを置いて穂香の前に差し出す。
「火傷すんなよ」
「あ、ありがとう。……いただきます」
 レンゲですくって口に運ぶ。熱々の米は柔らかく、淡泊な出汁とたまごの相性が抜群だ。
「美味しい……っ!」
「ふふっ、よかったわ。食べられるだけでいいからね」
 隣では敷島が自分の分をよそって大きな一口を運ぶと、思っていたより熱かったようでむせかえっていた。驚いた友恵は水を取りに慌しく出ていく。何とか呑み込んで、手のひらで口に向かって仰ぐ敷島の姿を見て、穂香は思わず笑ってしまった。
「お前、人が火傷しそうだってのにそれはないだろ」
「ご、ごめん。こんなに湯気が出ているのに一口の量じゃなかったから」
「昨日の夜から腹減ってんだよ。お前だって昨日はろくに食ってねぇんだから、俺の二の舞になるなよ」
「うっ……」
 スポーツドリンク、ゼリー。昨日の朝からろくに食事を取っていないことを思い出す。食欲がなかったのは風邪からくる倦怠感からだったのだろう。学校に着いたら食べようと思っていた高菜のおにぎりが無駄になってしまったけど、食べられる状況ではなかったのも確かだ。
 腑に落ちた途端、なんだか余計に腹が空いたような気がして、穂香はまた雑炊を口に運ぶ。その様子を見て、敷島は小さく笑った。
「今日は休みだし、家に帰るまで時間はある。飯食ってから考えようぜ」