時間をかけて準備をしてきた結婚式が五日後に迫っていた、強い雨の降る六月のことだった。
孝明が夜中に自宅マンションへ帰宅すると、玄関の電気がつけっぱなしなことに違和感を覚えた。揃えられた紗栄子のパンプスがあったので帰ってきているものだと思っていたが、まめな彼女が玄関の電気をつけたままにするのは珍しい。
リビングに行くと、テーブルには仕事道具が入った鞄、食材の入ったエコバッグが机の上に置かれていた。買い忘れたものを思い出して外に出たかと思ったが、スマホも財布も鞄に入ったままだった。
念のために会社へ確認すると、定時には退社していると言われてしまった。
不審に思った孝明は、紗栄子の実家に連絡した。しかし、彼女が最後に帰ってきたのは数週間も前で、それ以降の連絡は取っていないと母親は告げた。
ちょうどそこへ、風呂からあがった穂香が入ってきたようで、母親に聞いてもらうと、最後に連絡をしたのはメッセージでのやり取りで、三日前で止まっているという。特に他愛もない世間話だったため手掛かりにはならない。
孝明は一度電話を切って、心当たりのある場所をひたすら探し歩いた。夜になって雨がさらに強くなる中、どこを探しても見つからない。
捜索して二時間以上経ってから、仕方なしに警察に相談。本格的に捜索が開始されたが、それから一週間経っても進展はなかった。
孝明は仕事の合間や有休を使って、心当たりのある場所を探した。父親も仕事をなるべく早く終わらせて、途中から捜索に加わった。
その頃、紗栄子がいなくなったことを知らされた母親は、穂香に毎日のように「姉から連絡は来ていないか」と尋ねてくるようになった。そのたびに穂香が首を振るので、大きく肩を落とした。
家族仲がこじれていたという事実はない。それでも母親が申し訳なさそうに聞いてくるのは、おそらく家族の中で姉と特に連絡を取り合っていたのが、妹の穂香だけだからだ。
最後に連絡を取った、失踪する三日前の時点で特に変わった様子はなかったはずだ。