そういって新田がスマホを操作して画面を見せる。物珍しさに生徒が引き寄せられ、一斉に新田のスマホを覗き込んだ。どこか胸騒ぎがした穂香もつられて画面を見る。
 映し出されたのは、警察官の制服に身を包んだ複数名が河川敷を捜索している様子だった。生憎、見つかったとされているジャケットと靴は映っていない。
「もしかしたら、あの河川敷で事件が――」
「ちょ、もう止めとけって、新田」
「へ? ……あっ」
 クラスの誰かの声で、新田がしまった、と真っ青になる。
 画面を覗き込んでいた穂香は、新田のスマホを取り上げて画面の中をくまなく探す
(なんでもいい、なんでもいいから、何か写っていてくれたら……!)
 いくら探しても、何も繋がりそうなものはなかった。顔を上げれば周りのクラスメイトが心配そうな表情で穂香を見ていた。焦る気持ちが先走って、自分のした行動にハッとする。
「ご、ごめん、新田くん」
「い、いや! その……俺の方こそ、ごめん」
 慌ててスマホを返すと、新田が困ったようにそっぽを向く。穂香は無理やり笑顔を作って「気にしないで。大丈夫だから」と言えば、心なしかホッとした様子だった。
 自分の席に戻りながら、自分の行動を反省する。いくら胸騒ぎがしたからといって、人のスマホを取り上げてまですることではない。周りから気を遣われている視線が辛い。半年という時間は、人の記憶から忘れかける寸前で思い出してしまう、実に中途半端な時間だ。教室に漂う空気が途端に重くなったのを感じた。
「おはようー、全員揃っているかー?」
 葉山先生が入ってくる。世界史の教科担任とともに、クラス担任も勤める葉山の一言で、生徒は慌てて席に着く。時計を見れば朝のホームルームが始まるまで五分もある。生徒達もそれに気付いて、ふと首を傾げた。
「おいおい、まだホームルームやらねぇから。珍しく俺の調子が良いから来ちゃっただけだから」
 ニッと白い歯を見せて笑う葉山先生に、強張った教室の空気が緩んだ。怖い話なんてない、誰もがホッと胸を撫で下ろした時、思い出したように葉山先生は穂香の方を見た。
「時間があるから、ちょっと先に個々の用事を済ませるか。藤宮、来てくれ。この間話してたバイトの件でちょっと」
「は、はい……?」
 身に覚えのない話で呼び出されたことに戸惑いながら、穂香は席を立って葉山先生と教室に出る。
 廊下はまだ談笑する生徒で行き交っており、誰も二人が来たことを気にも留めていない。教室から少し離れた場所まで来ると、葉山先生は神妙な顔つきで言う。
「スマホにご両親から連絡は入っていたか?」
「え? い、いえ。何も……。朝も二人が起きる前に出てきたので」
「そうか……いやな、藤宮のお母さんから学校に連絡があったんだ。今日の二限目まで出たら、お父さんが学校の前まで迎えにくるから早退させてくれって」
「どういうことですか……?」
 両親が自分ではなく学校に連絡したのはともかく、早退を言い渡されるとは。葉山先生は躊躇いながらも、穂香をまっすぐ見て答える。
「お姉さんのことで確認してほしいものがあると、警察から連絡が来たそうだ」