自分の人生をここまで恨むとは思わなかった。
 学生の頃の友人たちとバカやって騒いだ日々が楽しくて仕方がなかったのを、今でも覚えている。当時は大人になってもこの関係は変わらないと自負していたし、砂の城のように簡単に崩れることなんてないと確信していた。
 人生を終えるのはまだ先の話だと、勘違いしたあの頃の俺たちは皆、共犯だったはずだ。
 人はいつか死ぬ――誰もが決められた終着点に、どうして俺だけがこんなにも早く、残酷な現実を叩きつけられなければならないのか。不公平だと叫んだところで、こんな俺のために誰かが耳を傾けることはない。
 目の前で医師が淡々と説明を続けても内容は一切頭に入ってこなかった。単調で事務的に話す男はまるでロボットそのもので、重要な話にも関わらず心には何も響かない。
 いや、そもそも心なんてものが存在しているのか。
 誰かの言葉や行動に感銘を受けるのなら、心ではなく感情が揺さぶられた、というべきだ。心なんて未確定なものを提言する必要はない。
 医師の説明が終わると、俺は黙って席を立って部屋を出た。
 ふらついた足取りながら顔を上げると、近くで世間話をして盛り上がっていた高齢の主婦たちが、俺の姿を見てすぐさっと顔を背ける。横切る際に聞こえてきたのは、俺の服装がだらしないだの、見た目が不潔だの、外見だけで判断した陰口だ。
 時間の無駄だが「いやぁ、まったくその通りですよねぇ!」と声をかけてやるべきだったか。
 そうしたら少しは黙るだろうし、何より奴らの歪んだ顔を拝めることができたかもしれない。そんなものに価値がないことだって、ポンコツな俺でもよくわかる。
 ああ、見返してやりたい。
 それこそ俺を見下し、嗤う奴ら全員を恐怖で怯えた顔にさせたい。
 ひとりでもいい、記憶に俺の存在が根深く残るよう、刻み込んでやりたい。
 誰にも忘れられない存在に、俺はなりたい。
「……そうだ、そうしよう」
 こんなくだらないことしか考えない俺でも、有終の美を飾ったっていいじゃないか。