学校近くのバス停で降りると、校門を通るまで敷島は穂香の隣に並んで歩いた。
 いつも登校している時間帯より早かったこともあって、二人が一緒にいるのを不思議そうに見る生徒は一人もいなかった。音楽室の方から吹奏楽部の演奏が聞こえてくるが、それを除けば誰もいない静けさが妙に不気味だった。
 穂香は正反対に教室がある敷島と別れると、自分の教室に入った。しんと静まった空間で、椅子を引く音が大きく響く。座って荷物を下ろすと、スマホのSNSをチェックしながらジャケットのポケットに入れていたゼリー飲料の封を空けた。常温よりも少しだけ冷たいそれを流し込めば、するすると入っていく。やはりスポーツドリンクだけでは誤魔化せなかったらしい。
 それからしばらくして、続々と登校してきた生徒が入ってきた。教室に穂香だけしかいないことに驚かれて「珍しいね」と声を多くかけられた。その中には鈴乃もいて、自分の荷物を下ろしてから真っ先に穂香のもとへやってきた。
「今日っていつものバスで来た?」
「ううん。少し早く着いたから、これでも遠回りのバスに乗ってゆっくりきたの」
「そっか、運賃は変わらないもんね……でも本当に珍しいね」
「そう?」
「だっていつも一番乗りの新田(にった)がまだ来ていないんだもの。自転車通学で家も近いのに」
 言われてみれば、穂香がいつも通りの時間で来ても真っ先に席についている男子生徒がいない。クラスのムードメーカーとも言うべき彼がここまで遅いのは、アラームを一時間ずれてセットしたがために大寝坊して以来だ。
 教室中で同じ話が盛り上がると、そこへ大きな音を立てて新田が滑り込むように入ってきた。冬にも関わらずワイシャツ姿で、うっすらと額に汗が浮かんでいる。
「新田……お前どうしたんだよ? 珍しいな」
「悪い! 途中ですごいもの見ちゃってさ!」
 友人に茶化されながら、新田は興奮気味に言う。
「家から学校までの間にある河川敷でさ、警察が集まって捜索してたんだよ」
 警察――その言葉に、穂香は過剰に反応した。昨夜も義兄から聞いた話が頭に浮かぶ。
 新田は続けた。
「なんか詳しいところまで見れなかったんだけどさ、女物のジャケットと靴が見つかったみたいで。俺、初めて警察が捜索しているところ見たよ。やっぱりこんな寒い日でも川に入るんだな」
「マジで? 写真とかねぇの?」
「こっそり撮ってきた。ちょっと待って」