穂香はまた、灰色の夢を見る。
 広い世界に取り残されたようなものではなく、狭い小屋に押し込まれた気味の悪いそれは、物心がつく頃から見続けている。
 年々視界が広がり、近くにあるものを認識できるほど明白になっていった。これが夢だと気付くたびに穂香は落胆した。明晰夢なんて見たくなかった。どうせならもっと楽しいものが良かったと、何度思い、願ったことだろう。
 ただこの日は、珍しく雨が降っていないことが気がかりだった。静まり返った小屋に押し込まれ、屋根と壁の隙間から漏れた光に手を伸ばす。生い茂った木々の隙間を縫うように、半分に欠けている月が顔を覗かせる。灰色一色で染まるのに、その月だけが輝いて見える。
「お月さまが見てくれているから」
 きっと大丈夫。――隣でそう言ったのは、誰だっただろうか。