いつも通り、東の空が朝日の光を帯びてくるより遥か前に、事務的に瞼をこじ開ける。



 まず確認するのは、自分の首元と左胸。

 何も異変がないことを確かめてはじめて、詰めていた息をゆるゆるとはく。



 以前、義母(・・)に寝起きを襲われかけた時から続けているこの習慣。あの頃から、一度も怠ったことはない。


 意識をしゃんとさせて、勢いよく立ち上がる。



 どこから来られても平気なように、臨戦態勢のまま辺りに素早く目を巡らせる。




 ――と、ふいに殺風景な天井や壁などではない、どこぞの高級ホテルの一室のような内装が目に入ってくることに遅れて気づいた。



 そうか。
 ここは、あの家ではない。



 そう理解した途端に、気がふっと緩んで、力なくベッドに片腕をつく。


 緊張がまだ少し残っていて、丸めた手が小刻みに揺れている。




 疲れた。まだ、何もしていないのに。

 深く息を吸って、落ち着けと自身に言い聞かせるように細い息を徐々に吐いていく。





「……燈矢さんに、お礼を言わなくちゃ」





 不本意ではあるが、命を救ってくれた。

 ましてや見知らぬお騒がせな女子高生をこんな立派な邸宅に一晩泊めるなど、並大抵の(うつわ)ではない。
 ではないのだが、やはり気を煩わせはしただろう。


 それになにより、ここに勤めているあの従者たちにとっても、突然やってきた私はいい迷惑だっただろう。
 
 


 借りたままの素晴らしすぎる着物姿のまま挨拶しに行くにはもちろん気がひけて、元々昨日着ていた制服に手早く着替える。