梅雨特有のじめっとした感じでもなく、まさに「結婚式日和」の晴天の下。
私、小花衣 紬生は、人生初レベルの重力を感じていた。
「……っ、ふぅ……」
早朝からまずは風呂へ放り込まれ、さっぱりしたのもつかの間。
あれよあれよと、化粧に着付けに大忙しだったのだ。姿勢が少々悪くなってしまうのは許してほしい。
それに何より、白無垢が……。
様子を確かめにきたスタッフさんが、和室に用意されていたウッドチェアに崩れる私を目に留めて、血相を変えてとんでくる。
「紬生様っ!姿勢を崩されてはなりませんよ。せっかくのご衣装が、皺になってしまいますっ」
ましてや孤月院。どうか、完璧なお姿で臨まれてくださいませ。
半ば脅し文句のような言葉を添えて、ついでに乱れていた裾を細かく調整してから、やっと退出していく彼女。
その後ろ姿を見届けて……今度こそ白無垢の形が崩れない程度に背中を曲げる。
お、重い……重すぎる。
着付けをされている最中にも感じたが、やはり風格ある白無垢だけあって、何枚も重ね着しているのだ。
その分、重量というか……まあ、体に掛かる圧力は、普段の何倍にもなるわけで。
結果、早々にへばっていた。
だがしかし、気疲れの原因はなにも体を圧迫してくる花嫁衣装だけに限らない。
私は隣の部屋から聞こえてくる話し声に耳を澄ませる。
――まあ、燈矢様。ご立派でいらっしゃいます。
――紬生の用意はできているのか。
――はい。既にご準備を終えて、お部屋でお待ちいただいております。
ふいに私の名前が呼ばれた気がして、余計に肩に力が加わった。
目の前の大きな姿見に映る自分の姿に、嫌でも現実に引き戻される。
そう。
今日は私、小花衣 紬生と――狐月院 燈矢の、一生に一度の大晴れ舞台である。